本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第8号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

高電場や放電が植物の生育に及ぼす影響は、科学技術が発達する前から経験的に知られており、系統的な研究も18世紀より行われてきた。近年、従来の電気泳動や細胞融合、電気穿孔(せんこう)法などによる品種改良(育種)、農薬の静電散布などの農業関連の技術に加え、植物の発芽や生長の制御、担子菌(きのこなど)での子実体形成促進、培地の殺菌などプレハーベストへの利用や収穫物の鮮度保持など、ポストハーベストへの利用が進められている。ここでは、盛んになりつつある高電圧やプラズマの農業・水産・食品分野への利用を俯瞰(ふかん)し、それらが利用する高電場やプラズマの物理・化学的特性と、生物との関係の理解を深める。

 狩猟・採集・漁労などを行いながら小集団で移住生活していた人類にとって、大集団・定住生活を可能にしたのが農耕である。そして、農耕と畜産を合わせた一連の生産活動が農業である1)。人類の安定した生活を支えるため、農業技術は大きく進歩してきた。日本の農業者1人当たりの生産は1960年の3.9tonから2000年の25tonと、40年間で6.4倍に増加した2)。しかし、課題も多い。日本の食料自給率は2016年のカロリベースで38%、生産額ベースで68%と低い3)。農業従事者の後継者不足も懸念事項で、基幹的農業者数は1960年の1200万人から年々減少し2)、現在は200万人を切っている。農産物を含むフードサプライチェーンでも、輸入が多いうえに輸送距離も長いなどの課題がある4)。また、食料廃棄の大きな理由は鮮度劣化・腐敗で、全体の6割を占める5)。このため、生産性向上、農産物の長期間鮮度保持、輸送コスト削減は、日本の農業やフードサプライチェーンにとって重要となる。

 高電場や放電プラズマが植物の生育に及ぼす影響については、科学技術が発達する前から経験的に知られており、系統的な研究も18世紀より行われている6、7)。近年では、品種改良における電気泳動や細胞融合、電気穿孔(せんこう) 法によるDNAの注入、農薬の静電散布などの技術に加え、植物の発芽および生長速度の制御、担子菌(きのこなど)での子実体形成促進、培地の殺菌、鮮度保持の研究が進んでいる8)表1に、これまで実施されている農業における高電圧やプラズマの利用と可能性を示す9)。農業における利用は、播種や育苗、果実収穫の段階までの収穫前(プレハーベスト)と、収穫後に鮮度を保持した状態で輸送を行う、乾燥などの1次加工を行う収穫後の段階(ポストハーベスト)に分けられる。ここでは、盛んになりつつある、農業への大気圧プラズマ利用について、「たね:種」、「なえ:苗」、「み:実」でのプラズマ利用(プレハーベスト)、および農産物・水産物の鮮度保持と食品加工(ポストハーベスト)での利用について解説する。

表1 農業における高電圧・プラズマ利用。
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