本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第6号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

高圧力印加は、物質の結晶構造や電子状態を直接制御できる強力な手法である。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)は高圧力下物性測定の代表的なツールである一方、実験的な難易度が極めて高く、国内でも限られたグループしか取り扱えない。我々は、誰でも簡単に高圧力実験を行えるようにするため、電極や絶縁層など物性測定に必要な機能を備えた新しいDACを開発した。電極材料にはホウ素ドープ金属ダイヤモンド、絶縁材料にはアンドープ絶縁体ダイヤモンドを用いており、高圧力下での安定動作と再利用性を兼ね備えている。本稿では、開発した装置により測定した熱電物質SnSeや、鉄系超伝導体FeSeの高圧力下電気抵抗測定の結果も報告する。

まえがき

 圧力は物質の状態を決定する基本的な物理量の1つである。したがって、高圧力実験により物質の結晶構造や格子定数を直接制御できれば、さまざまな新規物質の合成、また大気圧下では現れない特異な物性を引き出すことも可能である。近年、150GPaの超高圧力実験によって史上最高の転移温度203Kを示す新規高温超伝導体H3Sが合成され、ドライアイスで超伝導が発現できると大きな話題を呼んだ1,2)。Ashcroftは、超高圧力印加によって単体水素を金属化できれば、室温での超伝導が実現すると理論的に予測しており、高圧力技術の進展に大きな期待がかかっている3,4)

 ダイヤモンドアンビルセル†1(Diamond Anvil Cell: DAC)は、100GPa以上の静的超高圧力を発生可能な唯一の装置である。図1(a)に示すように、DACは2つの対向するダイヤモンドの間に試料を挟み込み高圧力を発生させる。ダイヤモンドは透明であるため、高圧力空間でその場結晶構造解析やレーザー加熱を行うことが可能である。地球科学の分野では、惑星内部の物理を理解するためにDACの到達圧力を向上させるさまざまな努力が続けられている5,6)

†1 ダイヤモンドアンビルセル 先端に鋭いキュレットを有する2対のダイヤモンドを押し当て、超高圧を発生させる装置。試料はガスケットと呼ばれる金属片に穴を空け、その中に封入する。ダイヤモンドの透過性を利用して、高圧力下でのその場X線回折やレーザー加熱など、幅広い応用が可能。
図1 DACの構成。
(a)一般的なDAC。(b)開発したDACの第1世代。電極にホウ素ドープダイヤモンドが使われている。(c)開発したDACの第2世代。絶縁層にはアンドープダイヤモンドが用いられている。(d)第2世代アンビルの光学顕微鏡写真。
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 しかしながら、DACを用いて高圧力下で電気抵抗測定を行うことは非常に難しい。これはDACの試料空間が極端に小さく、測定用の電極を挿入することが困難であることに起因する。例えば、前述のH3S加圧実験では、試料空間の直径は10~30μmと微小である。さらに、一般的に用いられる電極材料は圧力の印加によって変形、あるいは断線の恐れがある。また、DACの試料空間には穴を空けた金属ガスケットを用いるため、電極との短絡を防ぐための絶縁層が必要となる。この電極・ガスケット間の絶縁が高圧力印加によって破壊されると、試料の物性を測定できなくなることも問題である。

 そこで我々は、超伝導ダイヤモンドの研究7~10)で培った化学気相成長ダイヤモンド合成技術と、リソグラフィによる微細加工技術の組み合わせにより、誰でも簡単に高圧力下物性測定を行えるDACを開発した11~13)。本稿では、電気抵抗率やホール係数など、電極を用いた物性測定を高圧力下でより簡単に行うための装置開発や、これを用いて行ったSnSeおよびFeSe超伝導体の測定結果を紹介する。

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