本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第5号に掲載された「オンデマンドホログラフィック光ピンセット」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 光ピンセット技術は、生きた細胞、工業用微粒子、液滴、気泡などを非接触、非破壊で正確に空間操作する技術である。光ビームの正確な位置操作や多様な対象物への適用性を考慮すると、最も有望な技術の1つとして液晶空間光変調器を用いたホログラフィック光ピンセット(HOTs)技術が注目されている。HOTs技術では、ビームスポットの発生と操作は計算機ホログラムを空間光変調器(SLM)に連続入力することで実現している。このため、ホログラムの計算時間がボトルネックになっていた。我々は、物体を配列させるための静止している配列用マルチビームスポットと、物体を捕捉・移動させるための運搬用ビームスポットを同時に発生させるために時分割多重化を導入した。さらに、位相シフト法を利用することによって、ビームスポットの移動についてのボトルネックを解決した。本稿では、ディスプレイ上で行うマウスのドラッグ&ドロップ操作によって、顕微領域のマイクロ物体を自在に捕捉、移動、および配列させることを実現するオンデマンドHOTsシステムについて解説する。

まえがき

 光が物体に照射されると光の圧力が発生する。この光の圧力は放射圧とも呼ばれる。1970年に、Ashkinが1本の集光レーザービーム照射と2本の対向する集光レーザービーム照射によって直径0.59~2.68μmのラテックス微粒子の加速と捕捉の実証を行った1)。Ashkinの研究が発端となりマイクロ粒子、ナノ粒子、さらには原子の光操作の研究が展開された2,3)

 光の放射圧を利用して物体を操作する技術は、光ピンセット、または光ツィザーと呼ばれている。光ピンセット技術の特徴は、マイクロ物体、特に生体組織に対する非侵襲性、非破壊性、非接触性および遠隔操作性である。このような技術的な優位性のため、光ピンセット技術は広い分野において研究されてきた。例えば、誘電体粒子1,4,5)、金属粒子6~9)、エアロゾル10,11)、マイクロバブル12,13)、半導体ナノワイヤ14,15)、カーボンナノチューブ16)、ウイルス、バクテリアや細胞17~19)などがある。

 光ピンセット技術には、レーザー走査方式とホログラフィ方式がある。前者は、1本のレーザービームをガルバノミラー20)や音響光学変調器14)によってライン走査やエリア走査をする方式で、光走査ピンセットと呼ばれる。一方、ホログラフィ方式は、空間光変調器(Spatial Light Modulator: SLM)を利用して2次元強度パターン作成の自由度を向上させた方式であり、ホログラフィック光ピンセット(Holographic Optical Tweezers: HOTs)と呼ばれる3)。2000年前後にはコンピュータ制御可能なSLMの画素分解能とフレーム速度が飛躍的に向上した。同時期にマイクロコンピュータの性能も大幅に向上したため、SLMを実時間で操作することが可能になった。このようなデバイスの動向を背景にして、HOTsシステムが実用的な技術となるに至った21,22)。同方式では発生させるビームスポットの形状などの自由度が格段に高いため、機能的なHOTsシステムが開発された。例えば、複数のビームスポットを同時に形成・制御させたり3)、複数のビームスポットを光軸方向に移動させたり23)、特殊な形状のビーム、具体的には、ベッセルビーム24)やガウスラゲールビーム25~27)などを用いたHOTsシステムが提案されている。

 我々は、顕微領域にあるマイクロ物体に対して、オンデマンド操作を可能とするHOTsシステムの研究を行ってきた28)。SLMの高速なフレームレートを利用して、物体を捕捉・移動させる運搬用ビームスポットと複数の物体を配列・固定させるための配列用マルチビームスポットを同時に発生させることに成功した。これにより、ディスプレイに表示されている顕微領域にあるマイクロ物体の空間操作を、マウスのドラッグ&ドロップ操作で実行できるようになった。本稿では、我々が開発したオンデマンドHOTsシステムについて概説する。

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