前回に引き続き、トヨタ自動車の電気自動車(EV)戦略について考えていきたい。初めに若干おさらいをすると、トヨタはこれまで2030年に550万台としていた電動車両の普及目標を、2025年に550万台と、5年間前倒しにした。その背景には、世界で環境規制の強化が進み、それに対応するだけでも相当なEVの増加が見込めること、そしてEV拡大のネックと見られてきたリチウムイオン電池の生産能力が、中国企業を中心に急速に拡大していることがある。

 そして、5年前倒しにした目標を達成するためにトヨタは(1)2020年に中国で自社開発の量産型EVを本格導入するのを皮切りにグローバルで車種展開を拡大し、2020年代前半には10車種以上をラインアップする、(2)EVの普及に向けて「協調」の姿勢で多くの企業と新しいビジネスモデルの構築に取り組む――という2つの方針を明らかにした。今回はこの2つの方針について考えていきたい。

まだEVの普及には懐疑的

 今回のトヨタの会見で印象的だったのは、5年前倒しの方針を発表したにもかかわらず、EVが普及するかどうかについてトヨタがなお懐疑的に見えることだ。記者の質問に対しても、

 「2025年にEVがどれくらい売れるかは最終的にはお客様が決めること」
 「550万台というのは我々が勝手に置いた数字であり、クルマを出せば売れるというものではない。ただ、ユーザーの選択肢がないという事態は避けたい」
 「ハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)で450万台以上、EVと燃料電池車(FCV)で100万台以上という比率も世界の環境規制を達成するにはこのくらい必要だろうということで“エイヤ”で置いた数字」
(いずれも寺師茂樹副社長の発言を筆者が要約)

といった発言が並び、ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)が「2030年には世界販売台数の少なくとも40%をEVにする」などと発表しているのに比べて及び腰な印象を受ける。

前回も掲載したのだが、トヨタは電動車の普及目標を5年間前倒しした(資料:トヨタ自動車)

 実際、2030年から2025年に販売目標を5年前倒しするのに当たってHV・PHVとEV・FCVの販売比率は変更していないが、「5年前倒しになるかなりの部分はHVになるだろう」「規制を達成するだけなら2025年にEV・FCVで100万台はいかない、市場のニーズが規制を追い越すことはない」(同)と、2025年の時点でEVの比率は100万台に達しないと見ていることもうかがえた。

EVを売るために打つ手

 それもそうだ。トヨタは1997年12月に初代「プリウス」を発売して以来、20年以上の歳月をかけて、ようやく2018年にHVの世界販売台数で約163万台にこぎ着けた。HVにはEVのような充電ステーションが少ない、航続距離が短いという問題がないにもかかわらずである。日本や欧州市場でトヨタの販売台数に占めるHVの比率が約4割に達している現在でさえ、米国市場ではあまり受け入れられていない。まして、HVよりも普及のハードルが高いEVの販売台数を、これから6年で100万台にするという目標に確信が持てないのも道理だろう。寺師副社長も会見の中で「もしEVがそんなに売れるなら、HVはもっと売れるはずだ」と発言している。

 かといって、トヨタが成り行きに任せ、EVを拡販するために何も手を打たないかというとそれは違う。むしろ、EVを拡販するための手を考え抜いたうえで、それでもEVの販売台数が2025年に100万台以上に達するかどうか分からない、というのが正直なところだろう。ではトヨタが「EVは売れない」というこれまでの常識を覆すをために何をしようとしているのだろうか。

 1つは仲間づくりだ。今回の発表でトヨタは新たなEV専用のプラットフォーム「e-TNGA」を発表したのだが、このプラットフォームはモジュール構造になっていて、車体はフロントモジュール、センターモジュール、リアモジュールの3つのモジュールで構成されている。これに電池モジュールとフロント、リアそれぞれのモーターを組み合わせてプラットフォームを構成する。

e-TNGAは変動部分と固定部分を組み合わせてコストを抑えつつ多彩な車種への展開を可能にする(資料:トヨタ自動車)

 それぞれのモジュールには寸法の長短や出力の大小によっていくつかのバリエーションを持たせておき、必要に応じてこれらのモジュールを組み合わせることで様々な車種を展開する構想である。車種ごとに一から開発するのに比べて効率化につながり、また多くの車種で共通部品を使うことでコストの低減が可能になる。

先行するフォルクスワーゲン

 こういうモジュール化されたプラットフォームによって車両のコスト低減を図る手法はすでにエンジン車の世界では世界の完成車メーカーが様々な形で取り入れている。その考え方をEVの世界に最初に持ち込んだのは、VWが2016年に発表したEV専用のモジュールプラットフォーム「MEB」だ。MEBについてはこのコラムの「VW、ベンツなど欧州メーカーがEVに本気」でも紹介しているのだが、VWはMEBの発表以降、MEBを使ったモビリティーサービス用車両や、小型ハッチバック車のコンセプト車、多目的スポーツ車(SUV)のコンセプト車、小型バスのコンセプト車などを矢継ぎ早に発表している。そして商品化第1弾となる「ID.3」を2019年の秋に発売することもすでに発表済みだ。

フォルクスワーゲンが発表した同社初の量産EV「ID.3」(左)とEV専用プラットフォーム「MEB」の外観(右)。まだ正式発表前のため外観は偽装されている(写真:フォルクスワーゲン)

 MEBはフラットな床下に電池を敷き詰めて配置するほか、2輪駆動車では後輪を駆動するモーターを搭載し、4輪駆動車ではこれに前輪駆動用モーターを追加する。エンジン車に比べると床下に電池を搭載するぶん、床面は高くなるが、エンジンルームの寸法を縮小できるので、同じ全長ならエンジン車よりも広い室内を確保できるのが特長だ。これまでのEVはエンジン車のプラットフォームを基本に、床下に電池を敷き詰めたりしてEVを仕立てる場合が多かったが、MEBはEV専用のプラットフォームとすることで、EVならではのメリットを最大限に引き出そうとしている点が新しい。

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