創薬支援向けのミニ肝臓、ナノインプリントが培養のカギに

エレクトロニクス実装学会誌「大面積ナノインプリント技術とその応用」 -

2019/07/16 05:00
宮内 昭浩=東京医科歯科大学生体材料工学研究所
本記事は、エレクトロニクス実装学会発行の機関紙「エレクトロニクス実装学会誌」Vol.22 No.2 pp.153-157に掲載された「大面積ナノインプリント技術とその応用」の抜粋です。全文を閲覧するにはエレクトロニクス実装学会の会員登録が必要です。会員登録、当該記事の閲覧は、エレクトロニクス実装学会のホームページからお進みください。

1. はじめに

1.1 ナノインプリントの原理

 ナノインプリントは簡便に微細な構造を形成できるナノテクノロジーとして1995 年にChou 氏が報告して以来1)、急激に発展し、現在ではナノインプリント用の装置や樹脂、モールドを購入できる市場環境が日米欧韓などで整備されるに至った2)

 図1はナノインプリントの原理を示している。ナノインプリントでは被加工材料として熱可塑性樹脂と光硬化性樹脂が主に用いられ、それぞれ熱ナノインプリント法と光ナノインプリント法で成形される。熱ナノインプリントでは樹脂を加熱後にモールドをプレスし、剥離することで樹脂表面に微細構造を転写形成する。プロセスが単純でさまざまな樹脂材料を使用できることが特徴である。光ナノインプリントでは、粘度が数mPa・sと水のようなサラサラな光硬化性樹脂を用いる。モールドに樹脂が充填された後、紫外線を照射して樹脂を光硬化させ、モールドを剥離することで樹脂表面に微細な構造を転写形成する。樹脂の粘度が低いためにモールドの微細孔に樹脂が侵入しやすいため極微小な構造を形成しやすいとともに加熱工程がないことから基材の熱膨張を抑制でき、精緻な構造形成が可能である。ただし、光硬化性樹脂を用いる必要があるため、樹脂材料の汎用性に欠ける。

図1. ナノインプリントの原理
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1.2 大面積化への課題

 ナノインプリントに用いられるモールドはシリコンウエハに半導体リソグラフィ法や電子ビーム露光法で造形されることが多いため、造形面積は半導体チップと同等の20mm角から30mm角程度と小さい。ナノインプリントの半導体応用では、その程度の面積で問題ないが、本稿で対象としている“大面積ナノインプリント”では、転写面積を拡大するために、大判のモールドを作成するか転写プロセスを工夫することになる。

 転写面積の拡大に伴い、プレス工程では転写圧力の増大や大面積を均一にプレスする機械的な工夫が必要となる。そのため、小さなモールドを繰り返し押印するステップ&リピート方式やロール型による線状加圧が装置技術として重要となる。また、剥離工程においては大面積化に伴い剥離面積が増えるため、基板とモールドを一気に剥離することは困難となり、端から徐々に剥離していく離型機構も重要である。

 本稿ではナノインプリントの大面積化に関して、転写方式に関して簡単に紹介する。

2. 転写方式と応用デバイス

 大面積ナノインプリントにおける主たる転写方式はステップ&リピート方式とロール加圧方式である。これら二種類の転写方式には、それぞれ特徴があり、特徴を生かした応用デバイスが知られている。

2.1 ステップ&リピート方式

 ステップ&リピート方式は図2に示すように、小さなモールドを繰り返しプレスすることで転写面積を拡大する手法で、ナノインプリントのステップを繰り返す(リピート)ことからステップ&リピートと呼ばれている。この方式において隣り合う転写領域同士の位置関係を精緻に制御することで転写パターン同士のパターン連続性をある程度確保することで転写面積を大面積化できる。パターンの接続部の連続性がさほど問われない一部の光学デバイスでは、本手法は大面積化の有効なプロセスと言える。

図2. ステップ&リピート方式の概略図

 一方、半導体チップはダイの大きさが20mm角から30mm角程度であるため、ステップ&リピート方式はLSI製造に適している。図3は市販されているLSI製造装置である3)。ナノインプリントによって直径300mmウエハを毎時80枚処理できるスループットを実現している。また、クリーン度やアライメント精度も年々改善され、LSIの量産レベルに達している。

図3. ステップ&リピート方式を用いたナノインプリント装置の外観(a) と装置仕様(b)3)
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2.2 ロール加圧方式

 ロール加圧方式では、加圧工程にロールを用いる。そのため、加圧領域は帯状となり、低荷重で高い転写圧力を得られることが特徴である。ロール加圧方式では、図4に示すように加圧ロールの表面に微細な構造を有するタイプ(図4(a)(b))とニッケルめっき箔などのフレキシブルモールドを用いるタイプ(図4(c)(d)(e))の二種類に大別される。本稿では(a)と(d)の方式と応用例を述べる。

図4. ロール加圧方式による転写方式の概略
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2.2.1 光ロール法(2P:Photo-Polymerization法)と反射防止フィルムへの応用

 ナノインプリントではアルミニウム製の金属ロールの表面に酸化皮膜を形成する陽極酸化法で微細な孔を形成し、その金属ロールを転写ロールに使用する光ナノインプリント法が知られている。図5は光ロール法によるフィルム形成装置の概略である。フィルムはリールtoリールで供給され、ダイコーターによってフィルム表面に光硬化性樹脂が塗布される。ロールモールドの表面には、例えば陽極酸化法で直径200nm程度の深孔が形成されており、光硬化性樹脂は微細孔に充填された後、紫外線ランプによって硬化する。そして微細構造を形成されたフィルムは巻き取られる構造となっており、装置構成はいわゆる2P(Photo-Polymerization)装置と同じである。

図5. フィルム表面へ微細構造を形成する光ロール方式の概略
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 光ロール法の応用例としては反射防止(AR)フィルムが知られている。図6は光ナノインプリント法で形成したレンズ表面のモスアイ構造による反射率の低減効果を示している。モスアイ構造とは、蛾の眼の表面の微細構造を模倣した反射防止構造であるが、モスアイ構造の付型によってレンズの反射率は可視光の全領域で1/7程度、低減することが分かる。

図6. モスアイ構造による反射率の低減効果
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 また図7には従来の多層膜型の反射防止フィルムとモスアイ型反射フィルムとの比較を示す。多層膜型に比べモスアイ型では蛍光灯の反射が見られず、フィルム背面の模様をクリヤーに視認することができる。製造工程としても多層膜型では多くの薄膜形成が必要であるが、モスアイ型では一回のナノインプリント工程のみのため、製造プロセスの簡略化が可能となる。

図7. 従来のモスアイ型反射フィルム (a) と多層膜型反射防止フィルム(b) の比較4)
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 ところでモスアイ構造のように自然界には幾何構造で機能を発現している実例が他にも存在している。ナノインプリントによる機能表面の設計に生物構造を参考にすることはバイオミメティクスと呼ばれており、今後、製品開発における設計期間の短縮や新機能の付与の観点から重要な分野になると考えらる。特に複雑な生物機能を理解する点や生物学と工学をリンクする知識ベースとしてインフォマティクスを活用することがバイオミメティクスの工学応用では特に重要と考えられる5)

2.2.2 熱ロール法(シートナノインプリント法)と細胞培養シートへの応用

 熱ナノインプリントでは熱可塑性の樹脂材料を加熱し成形する。熱ロール法では加熱したモールドを被加工材に押し当てて成形することになるが、本稿では図4(d)の形態に関して述べる。

 図8はシートナノインプリント法と呼ばれる装置構成の概略である6)。シートナノインプリントでは図9に示すベルトナノモールドと呼ばれるループ状の金属箔モールドを用いる。ベルトナノモールドはSUS製のシームレスベルトに微細構造を有するニッケルめっき箔が貼られている。ベルトナノモールドは図8に示す加熱ロールによって昇温される。昇温されたベルトナノモールドはプレスロールによってフィルム表面に押し当てられてフィルム表面に微細構造が付型される。

図8. シートナノインプリント法の概略
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図9. ベルトナノモールドの外観写真
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 プレスモールドの表面にはシリコンゴム製のラバーが被覆されており、図8の挿入図に示すようにラバーは加圧によって変形し、いわゆるニップを形成する。フィルムとナノモールドはニップ領域(ニップ幅)を通過している間、加圧され、軟化した樹脂材料にモールド表面の微細構造が転写される。シートナノインプリント法ではベルトナノモールドを回転させることでナノインプリント工程を連続的に処理できることから高スループットなフィルム加工が可能となっている。

 図10はシートナノインプリント法で加工されたフィルムの外観写真である。厚さ80μmのポリスチレンフィルムの表面に最小200nmの微細構造が形成されている。

図10. シートナノインプリント法で加工されたフィルムの外観写真
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 次にシートナノインプリント法による細胞培養シートの製作に関して述べる7)図11は試作した96ウエル細胞培養プレートの外観と底部のSEM(ScanningElectronMicroscope)像である。細胞培養プレートには96か所の培養ウエルが形成されているが、本プレートでは、一つの培養ウエルの底部に約2,000個のマイクロインキュベータと呼んでいる培養スペースが形成されている(図11(b))。このマイクロインキュベータの底部には図11(c)に示す微小な突起構造が形成されており、この突起構造によって培養細胞は細胞塊を形成する。

図11. 細胞培養プレートの外観写真(a) とプレート底部の微細構造のSEM像(b)(c)
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 図12は熱ナノインプリントによるマイクロインキュベータの形成工程である。ニッケルモールドの表面にはマイクロインキュベータを形成する円筒状の突起と突起上面にピラーを形成するための微細孔が形成されている。このニッケルモールドをポリスチレンフィルムにプレスすることでピラー付きのマイクロインキュベータ構造を一括成形できる。

図12. 細胞培養向け熱ナノインプリント工程の概略
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 図13はマイクロインキュベータによる肝細胞の培養例である。図13(a)に示す白点線の丸印がマイクロインキュベータであり、内側の白実線の丸の内部にピラーが形成されている。培地と共に播種された肝細胞は図13(a)に示すようにマイクロインキュベータの中に沈降する。培養時間と共に肝細胞は集積化し、培養70時間後にはピラーが形成されている領域に肝細胞は集まり三次元化する図13(c)。この細胞塊(スフェロイド)の内部には胆管が形成され、代謝反応を有することが報告されており8)、ミニ肝臓として機能する。ミニ肝臓を一つの培養プレートに約20万個、形成できることから、多数の化学物質に対する代謝特性を一度に評価できる可能性があり、今後の創薬支援への応用が期待される。

図13. マイクロインキュベータによる細胞培養の動的観察例。播種直後 (a)、培養35時間後 (b)、培養70時間後(c)
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文献
1) S. Y. Chou, P. R. Krauss, and P. J. Renstrom: Imprint of sub-25 nm vias and trenches in polymers, Appl. Phys. Lett., Vol. 67, No. 21, pp. 3114 – 3316, 1995
2) Edited by A. Miyauchi, Nanoimprinting and its Applications, Jenny Stanford Publishing (2019)
3) https://global.canon/ja/news/2017/20170720-02.html
4) Y. Uozu, Moth Eye-type Antireflection Films, Industrial Biomimetics, Edited by A. Miyauchi and M. Shimomura, Jenny Stanford Publishing (2019)
5) A. Miyauchi: Creation of Functional Surface by Informatics and Biomimetics Journal of Photopolymer Science and Technology, Vol. 31, No. 2, pp. 267 – 270, 2018
6) M. Ogino, M. Hasegawa, A. Miyauchi, K. Sakaue, and S. Nagai: Fabrication of 200-nm Dot Pattern on 15-m-Long Polymer Sheet Using Sheet Nanoimprint Method, Jpn J Appl Phys., Vol. 52, No.3, 035201.1-035201.4, 2013
7) A. Miyauchi, K. Kuwabara, M. Hasegawa, and M. Ogino: Largearea nanoimprint and application to cell cultivation, Applied Physics A, Vol. 122, No. 4, article id.265, 5 pp, 2015
8) R. Takahashi, H. Sonoda, Y. Tabata, and A. Hisada: Formation of hepatocyte spheroids with structural polarity and functional bile canaliculi using nanopillar sheets, Tissue Eng. Part A, Vol. 16, No. 6, pp. 1983 – 1995, 2010
宮内 昭浩(みやうち あきひろ)
宮内 昭浩(みやうち あきひろ) 1986年東京工業大学総合理工学研究科修了後、(株)日立製作所日立研究所に入社。1995年-1996年MIT客員研究員、2010年から東京大学非常勤講師。2018年東京医科歯科大学特任教授。文部科学省とNEDOの専門委員。マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議セッションヘッド、ナノインプリント国際会議実行委員、応用物理学会、高分子学会、国際標準化の各種委員を務めている。
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