本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.102 No.3 pp.240- 246に掲載された「人工知能による文学創作」の抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから。全文を閲覧するにはこちらから。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら

1.はじめに

 コンピュータに創造性を持たせようという試みの一環としてコンピュータに文学作品を創作させる研究が行われている。本稿ではコンピュータに文学を創作させる試みとして俳句の例を取り上げる。

2.AI と俳句

2.1 AI 一茶プロジェクトについて

 筆者らのAI俳句に関するプロジェクトは、2017年6月に北海道大学の研究チームが中心となって始めた。プロジェクト開始時には俳句はおろか、国語の専門家もいない中でAI研究者のみでスタートした。なぜ俳句研究に取組み始めたかであるが、「俳句を詠む」、「評価する」、「批評する」といったプロセスに今のAIが未解決の良い課題、特にAIと人とのインタラクションに関する課題を多数含んでいると考えたからである。

 まず、俳句は決まった形式のある詩の中では世界で最も短い詩と言われており、5、7、5の17音の中に季語と強く言い切る働きをする切れ字(「や」、「かな」、「けり」など)を含みながら、言葉巧みに写実や情景を詠む必要がある。このような俳句は有季定型句と呼ばれる。作者が五感で感じたものや思い描いた情景を短い言葉で表現した後、その言葉を見た人がどれだけ作者の感じたものを心の中に再現できるかが重要である。季語も単に季節を表しているだけではなく、本情と呼ばれる背景的な状況や意味を理解して用いる必要がある。現状のAIでは技術が確立していない、人が持つ知識や感情を含んだ情報と日本語のエンコード、デコードについて考える良い課題である。

 また、初めからAIが五感を使って俳句を作ることは難しいが、画像を入力としてその画像に対する英語のキャプションを自動生成するというディープラーニングの技術が発表されており(1)、その技術を俳句生成に応用できるのではないかという期待もあった。ただ、英語と日本語の概念や表現上の違いは大きい。例えば、有名な川端康成の「雪国」の出だしは「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」であるが、E.サイデンステッカーの訳では「The train came out of the tunnel into the snow country」となり(2)、両者で説明の視点が異なることが分かる。金谷は「日本人は虫の視点からものを見、欧米は神の視点からものを見る」という言葉でそれを説明した(3)。このように、英語をベースとした研究をそのまま応用するだけでは微妙な日本語の表現を扱うAIを作ることは難しく、日本語ならではの特徴や表現にきちんと向き合ったAIを研究する必要がある。

 更に、俳句は数多くの過去の作品が公開されており、既に著作権が切れてしまった作品も数多くあるので学習データを使いやすいという点、また日本文学として歴史がありたくさんの作品集や結社が存在し、多くの批評が繰り返されてきたという点も研究対象としては好都合と言える。

 このような研究背景からAI俳句研究をスタートし、俳句を詠むAI「AI一茶」の実現を一つの目標として研究を行ってきた。研究をスタートした際、人が俳句に対してどんな評価をするのか、どのような景色(写真画像)にどんな俳句がマッチするのかについての学習データを収集するため、札幌で開催されるNo Mapsというイベントで市民ボランティアに呼び掛けた。その活動が NHKの目に留まり、2018年2月26日放送の「超絶凄ワザ!」にて、AI一茶チームと俳句の専門家を集めた人類チームとの対戦が実現された。放送の内容については省略するが、研究をスタートして半年程度での対戦ということもあり、人類チームが作る俳句の前にAI一茶チームが惨敗したのは放送を御覧になった方の知るところである。

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