本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.102 No.1 pp.69- 73に掲載された「触力学通信の応用事例」の抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。

1. はじめに

 触力覚通信は、産業界や医療などへの応用も期待されている。産業界においては、建設機械の遠隔操作への適用事例(1)などがあるほか、ロボットを遠隔でティーチングする(2)ことが可能になる。特に、医療・福祉分野においては、手術支援ロボット(図1)、遠隔触診、遠隔リハビリテーションなど様々な応用が考えられ、いずれの応用分野についても数多くのシステムが提案されている。

(a)マスタアーム
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(b)スレーブアーム
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図1 手術支援ロボット
医師が操作する(a)マスタアームと患者側で作業を行う(b)スレーブアームで構成される。製品によってはそれぞれサージョンコンソール、ペーシェントカートと呼ばれる場合もある。

 手術支援ロボットは、現在Intuitive Surgical社のda Vinciが製品化されている(3)。da Vinciは医師がロボットに指示を出すための操作部(マスタアーム)と患者の体内で作業を行うロボット(スレーブアーム)で構成されるマスタスレーブロボットであり、直感的な遠隔操作が可能である。現在、世界に3,000台、国内に300台以上のロボットが導入されている。これまでは前立腺がんと腎臓がんのみが保険適用となっていたものの、他の部位や疾患については自由診療であり病院または患者が費用を負担していた。しかしながら、2018年度から保険適用となる手術が12件追加されたことにより、今後ロボット手術の件数が大幅に増加することが見込まれる(4)。現状では、da Vinciに触力覚をセンシングする機能が搭載されておらず、医師は視覚情報のみを頼りにロボットを操作することになる。しかしながら、力情報を用いずに手術を行うことは、臓器に過剰な負荷を与える恐れがあり、医療事故防止のためにも触力覚通信機能を搭載し医師が力を感じながら手術ができることが望ましい。例えば、Betheaらは手術ロボットにおいて力覚フィードバックを用いると縫合作業において糸に加わる張力が有意に小さくなることを示している(5)

 また、近年、在宅医療が脚光を浴びている。足が不自由な高齢者は頻繁に通院することが難しく、自宅にいながら診断や治療を受けることが可能になればQOLの大幅な向上が見込まれる。遠隔診療についても、様々な条件が付されているものの2018年4月から保険適用となり(4)、今後大きく発展することが期待される。現在、ビデオ通話による診察や薬の配送などが認められているが、ロボットの普及とともに、触力覚通信を用いて遠隔で触診を行ったり簡易な治療行為を行うことも可能になると思われる。

 遠隔リハビリテーションも、在宅医療と同様に患者が施設に通うことなく治療を受けることができる技術として期待が寄せられている。従来、理学療法士は脳卒中後の患者の手足を直接動かして刺激を与え、機能の回復を行っていた。代わりに患者の手足にロボットを装着し、これを療法士が遠隔で操作することによって在宅でのリハビリが可能となる。療法士から患者へと動作を伝えるだけでなく、逆方向に触力覚情報を伝送することによって、患者の状態を確認しながら治療を行うことができる(6)

 本稿では、手術支援ロボットなどの医療ロボットの遠隔操作について事例を紹介する。触力覚通信、特にバイラテラル制御(用語)は制御の安定性など多くの課題が残されており、医療分野で製品化に至っているものは非常に限られているが、これらの課題を解決すれば広く普及するのではないかと考えられる。

(用語)バイラテラル制御 遠隔操作ロボットにおいて、操縦装置とロボットとの間で双方向に信号をやり取りし、力覚フィードバックを実現するための制御手法の総称。

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