本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.101 No.12 pp.1181-1185に掲載された「精密農業実現に向けたドローンの活用」の抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。

1.はじめに

 近年、日本の農業分野において、ドローンの実利用の期待は高まっている。それは、日本の農業は生産者の高齢化(平均年齢66.7歳)及び熟練生産者の引退によるノウハウの喪失、少子化による後継者不足の深刻化(農業就業人口181.6万人)など、他の産業に比べて特異な構造となっており、多くの課題を抱えているためである(1)。そのような現状の転換の一つに、これまで農業と関係が浅かった異業種分野やベンチャー企業による農業用ロボットやIoT・AI技術を駆使した精密農業の導入が各地で進み始めている。そもそも精密農業には、国や地域によって捉え方が異なる。アメリカは大規模農家(日本の農家一戸当りの農地面積の約100倍)を中心に生産性の向上を目的とし、ヨーロッパでは農業による環境負荷を低減することを目的としている。日本では、複雑で多様なばらつきのある農場に対し、事実を記録し、その記録に基づくきめ細やかなばらつき管理を行い、収量や品質の向上及び環境負荷低減を総合的に達成することを目的とする農法とされている(2)。日本のような小さい面積であっても、圃場内の状態は均一とは限らず、ばらつきが存在しており、それを制御することで収量及び品質の向上ができるという考え方である。

 圃場のばらつきを把握する手段として、従来から農家が農作物に触れたり、目視による確認で生育判断が行われてきた。これを効率的かつ定量的に非接触で把握する方法としてリモートセンシングがある。リモートセンシングによって、農作物の生育状況をきめ細かく管理し、これまでの生産者の「勘と経験」を数値として情報化することで、収量及び品質の向上をもたらすことができる。

 既に、農作物の作付け品目の特定や面積の把握、小麦や稲などのたんぱく質含有量や収穫期推定など多岐にわたり衛星リモートセンシングが活用されている。衛星リモートセンシングを用いた水稲のモニタリング手法は実用化されており、生育管理された農作物は地域ブランド(例えば、青森県産の「晴天の霹靂」など)として市場に出回っている(3)

 しかし、課題も残っている。まず、衛星リモートセンシングの観測に使用されるセンサは、大きく分けて光学センサとマイクロ波センサがある。光学センサは太陽の反射光を測定するため、観測時の気象状況、特に雲に左右されやすい。精密農業では、生育ステージに応じて農作物の生育モニタリングを行うことが必要であるため、欲しい時期の情報が得られないことは課題であった。現在は5日周期で同一地点を撮影するSentinel-2など複数の人工衛星を組み合わせて生育状況を取得できるようになってきた。また、マイクロ波センサは機体からマイクロ波を地球に向けて発射し、対象物から反射されたのを測るため、悪天候時でも地表面の状態を取得することができる。ただし、光学センサよりもデータ処理が複雑なため、現場での導入は課題となっている。

 次に、一度に広範囲の情報を取得できる衛星リモートセンシングの空間解像度は数十mであるため、産地単位の解析に適したスケールである。栽培の気象条件に制限がある東日本では、苗の移植日がほぼ同じとなるため精度良くモニタリングすることができる。一方、苗の移植日の異なる圃場が多い温暖な西日本では、様々な生育状況が画素内に混在してしまうため、モニタリングの精度が低下するといった地域差の課題もある(4)

 現在、注目されているドローンは雲の影響を受けない低空から任意のタイミング、任意の範囲(圃場1枚単位)、空間解像度数cmの高解像画像として観測できるため、生育管理の新たなツールとされている。筆者らは、日本の農業または地域を維持している多くの小規模経営や家族経営の農家が導入可能な低コストのシステム構築を目指し、ドローンを用いた近接リモートセンシングに基づく水稲モニタリングを試みた(5),(6)。上空から取得した生育状況の情報はGIS(地理情報システム)を用いて可視化し、効率的に管理することできる。また、追肥判定、倒伏リスク診断、収量推定など農家にとって有益な栽培戦略となる情報をマップとしてまとめることができる。本稿では、2014年から実施しているドローン水稲モニタリングの成果について解説する。

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