【質問】

 当社では、設計と製造の品質を高めようと5年ほど前にFMEA(Failure Mode and Effects Analysis;故障モード影響解析)を導入しました。しかし、その効果はさっぱりで、工数がかかるばかりです。最近、技術者のモチベーションも低下の一途をたどっています。先日、東京で先生のFMEAに関するセミナーを受講しました。そのとき、「FMEAの前にFTA(Fault Tree Analysis;故障の木解析)がある」、「FTAの前に設計書と匠のワザがある」というパワーポイントがスクリーンに投影され共感しました。この「匠のワザ」に関して詳しく教えてください。

 

この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 私はときどき、設計者を「設計職人」、技術者全体を「技術の職人」と表現します。料理の職人(料理人)や寿司職人、焼き鳥やウナギ蒲焼の職人、大工や左官の職人などさまざまな業界で職人が活躍しています。彼らの共通点は、一人前になるために辛いつらい日々の修業を必須としていることです。ところが、日本の設計職人に修業はありません。その証拠に「いきなり製図」、「いきなりCAD」、そして「いきなりFMEA」です。全く修業がありません。NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる」のチコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られてしまいそうですね。

 本コラムの第18回でも取り上げました。それは、「機械設計も学者になりたい人は別ですが、設計職人になりたい場合なら、前述の料理人とまったく同じ、つまり、学力より実務が優先されます。しかも、料理よりも簡単です。なぜなら、機械設計には辛い修業がないからです」と解説しました。

社会人面談で「修業」を語れる技術者は皆無

 私は、ある組織団体の転職者用試験問題と面接官を請け負っています。これを事例に以下を説明しても、概念の羅列で全く理解できないと思います。そこで、架空の事例として社会人博士号の取得に関する面接の場面を想定して解説したいと思います。

 昨今、少子化で経営に悩む大学が増加していることは、新聞でも何度か取り上げられているほどの深刻な課題です。そこで、何とか社会人にも大学へ入学してもらい、憧れの「博士号」を取得させようという「社会人博士号コース」というプログラムが存在します。入学後、3年もすれば努力の見返りとして博士号を取得できます。

 しかし、入学時は誰でもOKというわけにはいかず、入学試験があります。専門分野の筆記試験と小論文と面接が主たる試験です。筆記試験や小論文さえ免除し、面接だけでOKという大学もあります。それほど少子化による経営難が緊迫しているということでしょう。

 その面接時、私は圧迫面接もどきを実施します。「あなたは随分立派な経験年数をお持ちのようです。それでは、ここまでのあなたにとっての修業を語ってください」と質問するのです。

 すると、面接にしてはとても長い時間が過ぎた後、「ええっと……」と困惑した表情を浮かべながら、何とかその場しのぎの返答があります。その直前まで、自信たっぷりに担当業務や、何倍もの効率化が期待できる業務改善の改革などを述べてきたのに、突然の沈黙。しかも、その修業たるや、まるで週報レベルの悩みや課題です。なんとも情けない限りです。

 残念なことに、日本人技術者、特に設計者には修業がほとんどありません。「飯炊き3年、握り8年」と言われるのは、寿司職人の修業期間です。設計者にこうした修業期間はなく、いきなり設計です。 なんと軽々しい職業なのでしょうか。いや、そんなことはありません。本当にそんな軽々しい職業なのであれば、チコちゃんに喝を入れてもらいたいところです。

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