國井 良昌
國井技術士設計事務所 所長

 次のような質問が私の事務所に寄せられました。

【質問】

 私は韓国の自動車メーカーに勤務する電気自動車(EV)のプロジェクト・マネージャー(PM)です。実は、内燃機関を動力とするガソリン車やディーゼル車とは異なり、EVの開発経験はありません。そのEV開発の第1次試作を前に、各部門に「トラブル発生の予測箇所」をリスト化して提出するように指示しました。しかし、1週間経った今でも無回答です。どのようにしてトラブル予測を募ったらよいのでしょうか。先生にコンサルテーションを発注したく思います。

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 今回の回答は簡単です。ここのところ、難解な質問が続いたのでほっとしています。この質問には、「匠のワザ」を使えば解決します。

 匠のワザとは、腕利きの技術者(技術職人)が持つ必須の技のことです。学校では教育されず、最近は企業でも教育されなくなっています。匠のワザは以下のように6つあります。

  • 匠のワザ[1]:トラブルの98%が潜在するトラブル三兄弟
  • 匠のワザ[2]:インタラクションギャップを見逃すな!
  • 匠のワザ[3]:これで収束! トラブル完全対策法
  • 匠のワザ[4]:再発を認識したレベルダウン法
  • 匠のワザ[5]:現象ではなく原因に打て!
  • 匠のワザ[6]:落とし処はどこ? 何?

 これらのうち、最も重要な匠のワザである[1]のトラブル三兄弟を駆使すれば、簡単に解決します。トラブル三兄弟とは、トラブルの発生率が高い「新規技術」と「トレードオフ」、「変更」の3箇所のことです。このトラブル三兄弟をトラブル未然防止活動の礎(いしずえ)とするのです。これがなければFMEA(故障モード影響解析)や設計審査(DR)などの設計行為は不可能だと私は考えています。

 一般的なセミナーでは、設計品質向上のためにFMEAやDRの方法や運営の仕方を指導していますが、私はその一歩手前、つまり、FMEAやDRが有意義な設計プロセスとなるように、その基礎知識や修行部分に力を入れて指導しています。

トラブル三兄弟とは

 私の事務所のクライアント企業の協力を得て、トラブル原因を分析(件数分析)した結果が図1です。軍需製品は別にして、家電製品や自動車などの民需製品の場合、トラブルはトラブル三兄弟の所に、実に98%が集中しているのです。

[1]新規技術:32.7%

[2]トレードオフ(設計品質の優先順位を入れ替えること):32.7%

[3]変更(変更点):32.7%

図1●トラブルの98%が集中するトラブル三兄弟
[画像のクリックで拡大表示]

 日本の自動車企業をはじめとして多くの企業でFMEAが形骸化し、社告・リコールが増加している一要因が、こうした匠のワザの習得や設計者としての修行を行わずに、いきなりFMEAという道具を使ってしまうことにあります。