國井 良昌
國井技術士設計事務所 所長
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 次のような質問が私の事務所に寄せられました。

【質問】

 最近、技術系のメディアやセミナーで、「見える化」という単語が氾濫しています。かつて当社では、見える化を特集した記事を連載したことがあります。最初は「なるほど!これは相互理解が深まる」とか、「ミスや不具合の未然防止に役立つ」と思いました。しかし、うちの上司は「見える化ばかりで日本人技術者がダメになった」と言うんですよ。私も技術系の大学を卒業して記者になりましたから、上司に反論しました。ですが、回を重ねていくと、ダメとは言いませんが、最近の技術者は、「考えなくなってきたのかな」とか、「深掘りしないよな」と思うようになってきました。現役のコンサルタントである國井先生は、見える化をどう思いますか?

 この質問に対する私の回答はこうです。

【回答】

 前回は、優秀な外国人学生や外国人技術者が1年も経たないうちに、「悪しき日本人技術者」になってしまうことへの回答を示しました。さて、今回も難問ですね。知ったかぶりをしたくはありませんが、当事務所のクライアントである、韓国や中国、台湾の企業では、「見える化」という単語や、それに相当する単語は聞いたことがありません。見える化は日本企業の造語であり、「合言葉」なのでしょう。この単語の発祥なども調べて、以下のように回答します。

 設計コンサルタントで生計を立てており、設計に関するプロのつもりですが、筆者にとって「見える化」は、あまり縁がない単語です。

「見える化」とは

 筆者が詳しく知らないこの「見える化」の由来を調べてみました。コンサルタントとしては、情けなく思います(反省!)。

[1]日本の大手自動車企業の生産現場で発祥した単語。

[2]生産現場における問題を常に見えるようにすることで、問題が発生しても即、解決できる環境に整備しておく。

[3]さらに問題が発生しにくい環境に整備しておく。

[4]事例:トヨタ自動車のかんばん方式。顧客に相当する後工程の作業者が、必要な部品を、必要なときに、必要な量だけを、「かんばん」と呼ぶ部品管理カードを持参し、前工程に取りに行くこと。このシステムにより、前工程の作業者が、必要以上の部品を生産して後工程に貯めてしまう非効率な作業を回避できる。

 質問者の言うように「見える化」という言葉を最近やたらと耳目にするのは、この管理手法が生産現場だけではなく、さまざまなビジネスシーン、例えば、大手銀行や大手保険会社の事務処理業務でも有効らしいという評判が世間にあるからではないでしょうか。

 図1のイメージ図に示すように、有益な見える化とセットで「見せる化」も有益とされています。しかし、見える化の本質を忘れて、「見せる化」だけに特化しているという悪しき事例も指摘されています。

図●1「見える化」と「見せる化」のセットで推進するのが理想
(イラスト作成:國井技術士設計事務所)
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料理総長から学ぶ「見える化」

 創業明治10(1877)年。大阪の老舗日本料理店「大和(やまと)屋」があります。そこの総料理長を務めた人が「専門料理1985年7月号」で次のように語っていました。

 「最近は見える仕事ばかりで、見えない仕事を大事にしなくなりました。私は見えない仕事を大切にせな、いい料理人にはなれないと思うんです。若い時から1つひとつを積み上げて、基礎をしっかり身に付けなければと話してきたのも、そうしないと『見えない仕事』が分からないからです。例えて言えば、盛り付け台でも、上っ面なら誰でも拭きますけど、縁までは拭いていませんよね。でも、縁を拭くというような見えない仕事こそ、実はすごく大事なんですね。それは技術でもそうですよ。同じものを炊くんでも、昔の人は目に見えないところに実に多くの神経を使っていた。つまり、見えない仕事を大切にしてたんですね。私たちは日本料理の技術を守っていくためにも、そうした奥行きのある仕事を伝えていかなければいけないと思っています」(「フード・ラボ」から引用)。

 筆者も身につまされる思いです。本コラム第18回「機械設計は料理よりも簡単?」を復習してください。