古谷 賢一=ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 工場幹部の後継者を育成する際に、大きな障害となることがある。意外かもしれないが、候補者が優秀であることだ。人材が優秀すぎるために、かえって後継者としての育成の機会に恵まれないという変な現象が日本企業でよく起きているのである。

 経営者や工場長といった上級幹部(以下、上司)の配下にある部長・課長級の中堅社員は、優秀であるが故に実務の最前線を背負っている。上司の立場からすると、本社や人事部などから幹部候補者を育成するプログラムに参加する人材の選抜を打診されたとしても、自分の職場を動かしている中心人物を選ぶことには、かなりの勇気が要る。

 例えば、半年間、毎月1回の頻度で通常の実務から切り離したオフ・ジェーティー(OFF-JT)教育を受けさせるように本社側から指示された場合を考えてみよう。この場合、上司の頭に真っ先に浮かぶのは「本人が多忙過ぎて、そんな時間的余裕を与えることは到底できない」という言葉だ。

 「将来の工場長を担えるように、製造課長に購買課長を経験させる」といった人事案が出てきた場合は、「彼がいなければ現場は回らない。人材育成は重要だが、今彼を外すわけにはいかない」と上司は考えがちだ。現在、似たような問題を抱える工場や職場が目立ってきている。

強い工場づくりのポイント

 強い工場は、次世代の工場幹部を確実に育成するために、長期的な視点を持っている。ときに上司は部下の育成を優先し、一時的に発生する諸問題に対して腹をくくらなければならない。工場長などの工場幹部は、永続してその地位に居続けることはないからだ。優秀な工場長であれば昇格して転出(栄転)することもあるし、定年という物理的な制約も伴う。そのため、工場幹部は在任期間中に、自らのノウハウや英知を後継者に仕込むことが求められる。実際、高収益を誇るある名門企業では、幹部社員に対して「後継者育成は、幹部の最も重要な責務だ」と強く意識づけている。

 部下の育成を他の実務よりも優先すべきということでは決してない。腹をくくる前に、実施しておくべき2つのポイントがある。

 第1のポイントは、工場幹部として育成する候補者が不在になった場合に、現場でどのような問題が起き得るかを、そのリスクの大きさはどれくらいかをあらかじめ想定しておくことである。例えば、その候補者を月に数日間、実務から外した場合に、どのようなトラブルが具体的に起きるかを想定し、その対策をあらかじめ用意する。

 そもそも、工場幹部の後継者育成は数カ月で完了するような類のものではない。それこそ数年といった中期的な時間軸で育成を図る必要がある。

 そこで、第2のポイントは、上司である現任の工場幹部は、2~3年といったスパンでの後継者育成計画を立てておくことが必要だ。これは、上司本人の努力目標ではなく、人事評価につながる目標管理の一環として、ある種の強制力を持った形で行うことが望ましい。

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