古谷 賢一=ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 経営資源(人・物・金・情報)の中で、最も重要なのは「人」だ。研究開発や製造、販売など、あらゆる業務は人を介して動いている。そのため、工場では工場長や部長、課長といった上級管理者はもちろん、主任やリーダーといった中堅層、さらに若手や新人に至るまで、あらゆる階層で業務能力の向上を狙った教育プログラムが導入されている。

 図1は「カッツモデル」と呼ばれるもので、組織の各階層における必要なスキルの構成を示している。下の階層ほど、テクニカルスキルが必要とされるのに対し、上の階層ほど「コンセプチュアルスキル」に重点が置かれている。

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 主任やリーダーなどの初級管理・監督者と一般社員に必要とされるのは、主にテクニカルスキルと呼ばれる、業務を遂行する上で必要な専門的・技術的内容と定義されている。現場であれば作業に必要な知識やスキルが教育の内容となり、管理・間接部門であれば、設計や購買といった各機能部門で業務を遂行するために必要な知識や手順が教育の内容になる。

 一方、工場長や部長、課長といった上級管理者(工場幹部)に対する教育は、実務遂行上の知識も必要だが、それ以上に重要なスキルはコンセプチュアルスキルだ。知識や経験を生かしながら組織を俯瞰し、組織の本質的な課題を捉える「概念化能力」が、工場幹部への重要な教育内容である。

強い工場づくりのポイント

 強い工場は、徹底して従業員への教育を重視している。特に、組織を率いる工場幹部候補への教育は会社を挙げて取り組んでいる。組織を正しい方向に動かし、大勢の従業員を指揮・統率する工場幹部に組織的に適切な教育を行うのは重要な「業務」である。だが、現実には工場幹部への教育がうまくいっていないケースが極めて多い。むしろ、できている会社の方が少ない。

 工場幹部への教育は、工場幹部への教育の目的が明確になっているか否かが鍵を握る。中堅層から若手層向けに施されるテクニカルスキルは、生産能力の向上や遂行可能な業務量の増加といった定量的成果が短期的に見えやすい。これに対し、工場幹部に向けたコンセプチュアルスキルは、定量的効果はもちろん、短期的効果も見えにくい。例えば「部長の問題に対する洞察力が深まった」ことにより、組織での活動方針が修正されたり、取り組み内容に改善が生じたりする。それが成果として顕在化するのは、早くても四半期先、半期先や時には来期と時間を要することも珍しくはない。

 意識のギャップの問題もある。会社が工場幹部に継続的な組織の発展を期待し、中・長期的視点でスキル育成を行おうとするのに対し、教育を受ける工場幹部の中には、現在直面している現場の短期課題に目が向いている人が多い。そのため、会社と工場幹部との間には埋めがたい意識のギャップが発生する。従って、会社が工場幹部への教育の目的を明確にしていなければ、工場幹部が教育の意味を理解できず、教育そのものが軽視されたり、必要性を感じなくなったりする。こうした状態では強い工場にはなれるはずがない。

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