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古谷 賢一=ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 技術が進歩するにつれて、工場では「もの」が見えにくくなってきている。ITの進歩により、その場にいなくても現場や生産の状態が把握できるようになってきた。

 例えば、工場のさまざまな場所にあるカメラやセンサーなどの情報がディスプレー上に分かりやすく表示されていれば、生産現場に足を運んでわざわざ「もの」を見る必要性を感じないのも当然だろう。また、生産工程に導入された設備が高度化することで、生産工程で加工されている「もの」が高速で移動したり、設備内部が遮蔽されていたりして、目視による「もの」の確認が難しくなってしまうこともある。

 一時期、設計者がCADの発展に伴って「もの」を見ることがなくなったために、製品品質が低下したと言われる時代があった。3Dでコンピューター上に図面を基にした「(仮想の)もの」が表示されることで、「(現実の)もの」が目の前になくても製品開発ができてしまう。そのため、経験の少ない若手の設計者が、図面と「もの」をつなげて考えられなくなってしまったことが品質低下の原因と言われていた。

 これに対し、「もの」の重要性に気付いた会社は、工場に足を運んで生産現場を見た上で設計する業務を積極的にプロセスに取り込んだり、モックアップを作る機会をあえて設けたりするなど、徹底して「もの」にこだわって設計品質の向上を進める方向に舵を切っている。3Dプリンターもこれに一役買っている。

 製造業の原点は「もの」である。我が工場で、組織で、プロジェクトで、どこまで「(現実の)もの」にこだわった仕事をしているかを管理者は振り返るべきである。「品質が低下した」、「生産性が上がらない」など工場が日常抱えている問題がなぜ解決に至らないのかを、今一度、「もの」へのこだわりという観点で追究してみてほしい。

強い工場づくりのポイント

 強い工場は、徹底して「もの」にこだわっている。これは決して数値などの「データ」を軽視するという意味ではなく、強い工場では「データ」だけで議論はしないという意味だ。数値として得られた情報は、データ取得方法などが適切であれば、まごうことなき定量的な事実である。一方、「もの」を見て観察して得られた情報は、思い込みや誤解などがなければ、これもやはりまごうことなき定性的な事実だ。定量的な事実と定性的な事実。この双方があって初めて現場を正しく把握することができる。

 それ故に、強い工場は「もの」にこだわる。「もの」とは、製品や仕掛品、材料、設備、治工具など、工場にある「物理的な物体」の全てを指すと考えてほしい。製品の品質を追求したければ、徹底して製品を観察する。設備を改善したければ、徹底的に設備を観察する。ところが、「データしか見ない」、「図面しか見ない」、「コンピューター画面の3Dシミュレーションしか見ない」、「誰かから聞いた情報だけしか捉えない」といったことが昨今、とても増えている。強い工場の管理者は、その点を踏まえて指導すべきである。

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