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古谷 賢一=ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 「彼は実力不足だ」という言葉を、工場で上司が部下を評する場面でよく耳にする。部下が上司の期待した成果を出せなかった場合や、上司の期待する行動が取れなかった場合などに発せられる。もっとひどい言い方の「あいつはダメだ」や「あいつは全然分かっていない」などという言葉を聞くこともある。確かに、工場の管理者の立場であればこうした言葉を発したくなるような場面は幾度もあるだろう。

 だが、そうした言葉を発する前に一呼吸置いて冷静になるべきだ。理由は、多くの場合、こうした言葉を発する本音の部分に、部下に対する指導を放棄する意図が多分に含まれているからだ。「実力不足」=「これ以上教えてもムダ」と考え、先ほどの言葉を発する。こうして部下の評価を下げて終わりにするのはいかがなものか。

 実は、「実力不足」という言葉の背景には、上司自身が部下に具体的に何が足りないのかを的確に指摘できないため、成果の未達に対して「実力不足」という“十把一からげ”の言葉で片づけてしまうという残念な事実がある。管理者として組織の目標達成に向けたPDCAのサイクルを回すとき、目標達成に何が足りないのか、どれくらい足りないのかを明確に把握することが、C(チェック)の役割だ。部下の足りない点を具体的に指摘できないようであれば、PDCAサイクルを回すことができない。ということはつまり、目標達成に向けた管理をすることができないということだ。

強い工場づくりのポイント

 部下の教育に際して「何が自分に足りないのか、自分で考えろ」と言う上司がいる。私はそれにあえて疑問を呈したい。実務者レベルに教育的な意味を込めて「自分で考える」ことを部下に求めるのは有効な手段だが、それは上司の頭の中に自分なりの答えがあることが前提だ。一方、上司自身が、部下に何が足りないのかを明示できないまま、部下に対して「自分で考えろ」と言うのは極めて無責任だ。

 強い工場は、組織のパフォーマンス向上と同時に、メンバーの育成も優先度の高い課題と捉えている。そのために、上司である管理者は部下に対して「考える」ことを常に要求する。しかし、漠然と「考えろ」と言っても、部下の考えや行動が変わることはまれだ。管理者は部下に対し、考えのきっかけとなる具体的な方向性や具体的な着眼点・検討視点を提示して、そこから部下の考えや行動を引き出すことを促していくべきである。

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