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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)

 「やり尽くした」──。改善活動を始めるときに、よく遭遇する言葉だ。こうした声があると改善活動が途端に低迷し始め、思うような成果が出なくなってしまう。この発言が挙がるのは次の2つの場合だ。

 1つは、改善活動をやりたくないため、その言い訳にしている場合である。具体的には、「やることが多く、忙しくて追加の改善活動にまで手が回らない」や「他に優先順位の高いものがあるので、改善活動は後回しにしたい」といった「やりたくない理由」を「やり尽くした」という発言に変換するのだ。

 こうした場合、「やりたくない理由」を潰し込まないと改善活動は止まってしまう。生産現場には、「あれも大事、これも大事、全てやれ、何とかしろ」と業務指示を出しまくるのではなく、管理者側が業務の優先順位を決めて指示をしたり、業務の取捨選択を仕切ったりするなど、業務の整理・整頓から始めるのがよい。

 もう1つは、本気で「やり尽くした」と思っている場合だ。改善を本気でやり尽くしたと思っているので、それ以上の改善の必要性を説いても全く聞く耳を持たない。しかも、本気で思っているので、後ろめたさが全くなく堂々としている。この状態で改善活動を強引に進めると「やらされ感」が職場に充満してしまい、生産現場が険悪な雰囲気になる。

強い工場づくりのポイント

 「改善に終わりはない」と言うと、それは理想だという人もいるだろう。あるいは、ひたすら馬車馬のように走り続けろと言うのかと強い抵抗を示す人もいると思う。

 改善が進んでいない職場で改善に取り組むと、最初は大きな成果が出てくる。しかし、毎年継続的に改善を重ねていくと、徐々に改善テーマは枯渇してくる。加えて、得られる成果も徐々に小さくなっていく。それ故、生産現場では、マンネリ感や、やらされ感が湧き上がるのだ。

 一方、強い工場は、改善に対して「やり尽くした感」を持つ者が少ない。これは改善に対する貪欲さの表れだろう。改善の成果を求めることはもちろんだが、それよりも「改善をやり続ける」という企業風土が身についている。本当にもうやることはないのかと自問自答し続けていくのだ。たとえ自社の技術力の限界に達していても、マンネリ感をどう防ぐか、やらされ感をどう減らしていくかという視点を持ち、手を替え品を替えて生産現場を変え続けようとする。このような工場では「改善をやり尽くした」という言葉が出ることは思考停止と同義であり、工場の成長が止まってしまう危険信号だと捉えている。

あるある事例

 組立工場の工場長になったA氏は、前任の加工工場長時代から生産現場の改善には特に力を注いできた人物だ。加工工場では、生産性は設備をいかに高稼働させるかが勝負である。そのためA氏は、細かな設備保全やほんのわずかな条件の変更でも、効果があると判断したものは積極的に取り入れてきた。加えて、加工工場は設備操業が主なので所属する作業者はそれほど多くはないが、それでも人の動作のムダやロスには目を光らせてきた。そのA氏の薫陶を受けてきたこともあり、加工工場の作業者は改善のネタ探しには貪欲だった。もちろん、多忙な時期には生産を優先して改善活動が少し停滞することもあった。だが、そうなると全員が改善の停滞を後ろめたく感じ、手が空けば何かをしたいと考える文化が根付いていた。

 そうした加工工場を造り上げたA氏の実績を買った会社は、さらに大きな所帯である組立工場の工場長へと彼を抜擢したのだった。

 組立工場は、多くの組立装置と作業者が入り混じった複雑な作業工程となっている。設備改善のみならず、人やもの、情報の動きの改善など、さまざまなテーマが考えられるはずだ。A氏は、組立工場は改善の宝庫だと考えて腕を鳴らしていた。しかし、生産現場の課長たちと話しているうちに、その思いは打ち砕かれ、暗たんたる気持ちになってしまった。

 まず、生産現場の課長たちから出てきた言葉はこうだ。「この工場は、これまでさまざまな改善活動を行ってきました。実際、他工場と比べても、不良の件数は圧倒的に少ないのです」。

 確かに、組立工場では以前からさまざまな改善活動を行なっていた。だが、A氏の目から見ると中途半端であり、生産現場を見る限り、まだまだやることはあるだろうという印象だった。そこで、A氏はさまざまな視点で改善のポイントを挙げて、取り組みへの気づきを持ってほしいと説得を試みた。

 ところが、「それはやりました」「それも考えたことはありますが、この工場には合わないのでやりませんでした」といった返事ばかり。そして、最後は「この工場は会社の中で最も改善が進んでいると自負しています。まだ何かやることがあるのですか。何度もやったことを、またやれと言うのですか?」という言葉で議論は終わってしまった。