先日、仕事で東北を訪れた。電車の車窓から、緑なすじゅうたんが目に染みた。早場米はそろそろ収穫時期を迎える。稲穂が頭(こうべ)を垂れ、新米への準備が整いつつある。雨にも風にも負けず、夏の猛暑にもおろおろせず、すっくと立つ稲に、自然と向き合う設計者はよく似ているなと、つれづれなるままに考えた。

 筆者が学生であった頃、先生からご指導いただき、印象が深く、今でも覚えている言葉がある。

「工学を目指す者には、体力が絶対条件である。開発といえども、ものづくりは非常に泥臭い世界で、ガスボンベをかつぐような仕事も重要になる。しかし、知識や技術は『T』字形を心掛けよ。自分にとって専門をここだと決めたら誰よりも負けない深みを持たせよ。他の分野は浅くてもよい。広く知れ。そうすると技術者としてやっていける」

 設計者は、その専門技術分野で誰にも負けない深みを持たなければならない。しかし、それだけではダメで、周辺分野の幅広い知識や技術も兼ね備えておく必要がある。そうなるように日々研鑽(けんさん)せよ、ということだ。

 その後、様々な自動車部品の設計を経験するたびに、専門技術の深みも、周辺分野の幅広い知識も共に足りない、足りないと、先生の言葉の重みが身に染みた。

 同時に、設計職場ではもう1つ大切なことを悟った。こういうことだ。設計では、設計目標値を達成する手段や方法がすぐに見つからない場合が往々にしてある。見つかっても、その製品にとって最適な方法なのかどうか、見極めるのはなかなか大変だ。ここは試行錯誤の連続となる。

 複数の方法を同時に比較検討するのは当然だ。その中でこれが良いと思って第1候補として検討を進めても、思わぬ課題が出て、別の方法を検討する羽目になることもある。設計では計画通り進まないことはざらだ。予定よりも時間がかかるのは覚悟の上で(ただし、日程を遅らせるという意味ではない)、 一からのやり直しも乗り越えなければならない。ダメでもダメでもやり直す、チャレンジし続ける「執念」と「情熱」が必要だと悟った。これは知識や技術と同等に重要な力である。経験を1つ紹介しよう。

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