ワールドテック 代表取締役、元デンソー設計開発者

 日本経済新聞の名物コラム「私の履歴書」。今月(2018年9月)の執筆者は、すかいらーく(ホールディングス)の創業者だ。若い頃に働いていた築地のかんぴょう問屋の社長から商売の基本をたたき込まれたという。

 「仕事は準備が8割」、「良い物を売れ」、「余分にもうけるな」、「(ものを大切にするために)くぎは拾って真っすぐにして使え」──。いずれも飾らない言葉だが重みがあり、すっと心に届く。多くの苦労を乗り越えた末にたどり着いた問屋の社長の心境を表す言葉だったのだろう。

 先のコラム(第35回)で、「世界No.1製品」を目指して取り組む人や、情熱を持って高い目標に向かってチャレンジしてきた先達には共通するマインドがあることを取り上げた。それは「常識にとらわれない」、「失敗を恐れずにチャレンジする」、「失敗は貴重な財産。多くの失敗から多くを学ぶ」、「まずはやってみる」、「自分で考え抜く」、「迷ったときは、苦しい方を選べ」…などだった。これらの言葉も、奇をてらうような言葉はない。誰もが聞いたことがあり、そうありたいと思っている言葉ばかりだ。

 問屋の社長の言葉とこれら先達の言葉の背景には、共通点があると私は考える。何気ない言葉だが、実は経験から発せられる信念であり、その人にとっての哲学であるはずだ。立ちはだかる課題に臆することなく、最大限努力し続けた結果として到達した悟りと言っても言い過ぎではないだろう。深い経験に裏打ちされた言葉には迫力がある。以前、私は大手企業を創業した人の講演を直に聞いたことがあるが、その言葉の迫力は今も鮮明に思い出す。

 この「設計力」のコラムも、私の経験を踏まえたものだ。多くの先達とは比べようもないささやかな経験だが、そこからたどり着いた悟りがこのコラムの骨格となっている。そのささやかな経験の一端に触れる。

図面の内容を全て理論的に説明できるか

 自動車部品メーカーで開発設計に携わっていた頃を振り返り、そのスタンスを一言で表現せよと言われれば、「手抜きをしないこと」と答える。自分のことで恐縮だが、気力と体力の限界まで取り組み続けたということができる。だが、これは素晴らしい成果を出したということではない。むしろその逆で、開発で失敗を繰り返し、やっとのことで量産にこぎつけた製品で半端ではない赤字を出したこともある。開発設計の経験はまさに修羅場の連続だった。だが、逃げることなく懸命に取り組むことで開発設計について多くのことを悟った。それが「設計力」である。

 そして、設計力の1つが、本コラムでこれまでに述べた「自然はだませない」というものだ。ものづくりは自然が相手である。自然は理論で構築されている。従って、開発設計は理論に裏打ちされていなければならない。すなわち、開発設計の成果物である図面に書かれた内容は全て理論で説明でき、試験や実験でその理論が間違っていないことを定量的に検証できなければならない。これが開発設計の根幹であり、その実現には多くの設計力が必要となる──。こうしたことを私は悟ったのである。

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