KDDI自身が悩んで獲得したノウハウを提供

デジタル変革を担う人材のトレーニングまで実施しているのですね。でも、なぜ、そんなことができるのでしょうか。

山根氏:なぜ可能かと言えば、KDDIがこれまでに歩んできた道のりそのものだからです。6年前、2013年になりますが、私たちは新しいサービスの開発をほぼ全て外注していました。KDDIにも、もちろん開発部門はあったのですが、基本的に仕様書を書くだけ。後は、RFP(提案依頼書)をITベンダーなどの外部の企業に渡して「作ってください」と依頼する。そして、出来上がったら運用に載せてサービス化していたのです。

 ところが、この方法には大きな問題があります。新しいサービスが成功するか否かは、結局は誰にも分かりません。しかも、開発方法には「ウオーターフォール型」を採用していました。これは、企画→要件定義→設計→実装→テストと工程が一方向に不可逆で流れていくため、途中で機能を追加すると費用が課題になってしまう。そのため、企画では「これは要るかもしれないな」と思う機能をとにかく盛り込んでしまう傾向がありました。結果、使いもしない機能をムダに詰め込んでいたのです。「開発すれば必ず売り上げにつながる」、もしくは「コスト削減につながる」と担保されているサービスであれば良いやり方かもしれませんが、デジタル技術を使って未知の新しい価値を生み出していくには、極めてリスクが高い方法です。

 そして、それ以上に問題だったのは時間がかかること。開発に半年から1年もかかるのです。そのため、企画部門のメンバーが市場調査した時から状況が変化してしまい、使われないサービスを市場投入することになるのです。私たちに限らず、どの企業でも最初は夢を描いて新しいサービスを世に送り出し、「◯カ月で投資回収します」などと宣言しますが、描いた損益計算書(P /L)通りにいくのは5つのうち1つぐらいではないでしょうか。

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従来の開発方法では8割は失敗してしまう、というわけですね。

山根氏:失敗することがダメだと言っているのではありません。小さく、賢く、失敗する、そして失敗から学習することが重要なのです。成り行きに任せて何となく進めて失敗するのではなく、じっくりユーザーを観察し、仮説を立てて、それを実際に構築してユーザーの反応を利用可能なデータとして得ることが重要です。そして、より多くの学習成果を得るためには、仮説を立てたら、短い期間で小さく素早く作り、すぐに検証し改良を繰り返す必要があります。そのために私たちがどうしたかと言えば、エンジニアを育成して開発を全て内製化しました。加えて、外部からコーチを雇って「アジャイル型」開発(以下、アジャイル開発)の手法を導入しました。ご存じの通り、アジャイルとは「俊敏」という意味。これは、短い開発サイクルを何度も繰り返すことで少しずつ改善していき、できる限り速くサービス(製品)を開発する手法です。短期間で簡単な試作とユーザー評価を繰り返し、素早く改善を行うことで、使われない機能を開発してしまうリスクを避けることができます。

 こうして、私たちはアジャイル開発のチームを立ち上げました。このチームに企画ができるメンバーと、エンジニアのメンバー、インフラや運用を担うオペレーションのエンジニアを部門横断で集め、小さなスタートアップ企業のような形にしました。その上で、経営陣から権限を委譲してもらったのです。

 これにより、メンバーはビジネスについて自律的に考えながら、並行して技術的な開発を進めます。同時に、オペレーションも考えて実行する。これらを1週間や2週間といった短いサイクルで、すなわち「アジャイル」にインテレーション(繰り返し)を回していく。こうした開発方法に私たちは変えたのです。

急にそこまで大きく変えることに不安はありませんでしたか。

山根氏:もちろん、権限を委譲することは経営陣にとってもリスクが伴うので、最初はメンバーが5人程度のほんの小さな開発チームからスタートさせました。でも、そこからどんどん増えていき、現在は200人を超えるメンバーで20チームぐらいになっています。彼らは今、KDDIのアジャイル開発センターという組織で働いています。

 同センターは主にKDDIの自社サービスを開発しています。これまでに、例えばスマートホームサービスの「au HOME」や新電力サービスの「au でんき」などのサービスを開発するという実績を上げています。でも、ここまで来るのに、私たちは随分と悩み、それを乗り越えてきました。同じように悩んでいる顧客が日本中にたくさんいるのではないかと考え、KDDI DIGITAL GATEを立ち上げたのです。こうして、私たちKDDI DIGITAL GATEのメンバーが顧客とペアとなり、サービスを作るためのプロセスを実際に経験してもらいながら、開発の進め方や日々の時間の使い方などをトレーニングも含めて実践しているのです。