:基本的にはそうです。地図の更新とか、そういったフェイルセーフにダイレクトに関係しない部分に関してはやっていますが、やはり安全に関係する重要な部分はまだ慎重に対応させてもらっています。

F:本当は電線を減らしたいですよね。

:そりゃそうです。何しろ重量がありますから。

F:60キロくらいはありますか?

:具体的な数字は申し上げられませんが、もっとありますね、LSくらいになると。フェルさんの言う通り、レクサスに限らず僕らも、できれば電波を使って軽量化を図りたいのですが、いろいろな思わぬ干渉がありますからね。

F:なるほど。

:その頃のエピソードで面白い話があるんですよ。当時僕が電波ノイズ関係の仕事をしていたころって、トヨタはちょうど初代プリウスの開発の時期だったんですよね。プリウスって高電圧のシステムを使うクルマじゃないですか。だから従来のクルマとは違うノイズがいろいろ課題になっていたんです。

F:それは当然ノイズ電波を出す方ですよね。

:そうそう。ノイズを出す方です。やっぱりそれをシールドしなきゃイカンよなと。でも強固にシールドすると(コストが)高くなっちゃう。僕ら評価屋さんにしてみれば、絶対にノイズ漏れは止めてもらわなきゃいけません。当時プリウスの開発担当だったのは、いま会長になった内山田(竹志)さんです。

F:おぉ!

:その内山田さんに、ラジオが聴けなくなりますとか、もしかしたら人体にも影響するかもしれませんとか言って、ノイズ低減の必要性を説明しに行くわけです。それで「対策するにはこのぐらいのお金と質量がかかるので、よろしくお願いします」と。すると……。

F:高い! と(笑)。

:高い! 重い! こんなものまかりならん!と(苦笑)。

F:どわー(笑)。

お百度を踏んだ仕事が、企画への道につながった

:最初に持っていったやつは言われてみれば確かに高かったし重かった。それじゃあと僕らも一生懸命苦労して、何をどうしたら効果的かというのを散々やり抜いて、最終的には元の提案よりも4分の1のコストと質量にして持っていったんです。でもその間のやりとりは二度や三度じゃありません。文字通りお百度を踏んで、何度もダメ出しを食らって、最終的にやっとOKをもらったんです。

F:いい話だなぁ……。

:内山田さんからすれば、なんやあの電技のシツコイ奴はと。俺がこんなにダメダメ言うとるのに、ようも何度も来やがるなと。

F:ははぁ。

:そんな過去があって、先代のLSをやるときに、吉田CEが、電技にオモロイ奴がいるから呼ぼうと思っていますと、内山田さんに話してくれたらしいんです。内山田さんは当時第1開発センターのセンター長だったので。

F:第1開発センターってなんですか?

:当時は1センター、2センター、3センターといって、FR大型系と、FF小型系と、それからミニバン系と開発が分かれていたんです。

F:なるほど。

:そのセンター長を内山田さんがプリウスの開発を終えた後にやられていて、吉田CEが、電技から人を採ろうと思っているんですが……と候補を3名ほど挙げていたらしいんです。その中の1人に僕がいて、それを見た内山田さんが、「おっ! こいつ俺、知っとるぞ!」と。「プリウスのときにしつこかった奴じゃないか」と(笑)。

F:シツコイ、オモロイ。こいつええで、と(笑)。

:ええ(苦笑)。それで、こいつ良いんじゃないかと言ってくださったのもあって、いま5代目LSのCEになったという経緯があるんです。


初代プリウス

 エレキ出身の旭さんがトヨタの金看板であるレクサスLSのチーフエンジニアに就任された背景には、初代プリウスの開発で取っ組み合った内山田氏の強力な“引き”があった。これは「秘話」と言って差し支えないだろう。無論ヨイショやゴマスリで引き立てられるほどトヨタはヌルい会社ではない。

 眼の前の仕事にひたむきに取り組み、何度ダメ出しされてもシツコク食い下がった真摯な姿勢が評価されてのことである。

 今回はLSの話から脱線してしまったが、あまりにも興味深いエピソードなので書かせていただいた。LS旭さんのお話は次号に続きます。