私の本業であるリーマン稼業でやりとりのあるトヨタの電子部品関連のエンジニアは、「我々電子系はしょせん外様で、トヨタではメカ系じゃないと絶対に上に上がれない」と酒の席でポロりとこぼしたことがある。

 一方でレクサスのフラッグシップ、即ちトヨタの金看板であるLSのチーフエンジニアの旭さんは、学生時代にバックプロパゲーションを研究されていたバリバリの電子系エンジニアだ。先の愚痴氏の話を旭さんにすると……。

レクサスインターナショナルのチーフエンジニア、旭 利夫さん

F:私がトヨタのエレキ関連のエンジニアの方……その方は国内の某デバイスメーカーご出身で、トヨタには転職組なんですが……と飲みの席で話していると「いや、しょせん僕らは外様で、トヨタの中では絶対に偉くなれないから」とおっしゃっていたのですが、決してそんなことはないですね。だって、旭さんはエレキ出身でLSのチーフエンジニアになったのですから。

:ええまぁ。そうですね。

F:その人が偉くなれなかったのは、その人個人の問題で、メージャーの問題ではなかった。

:私には分かりませんけれど、担当している部品とかシステムも関係しているのかもしれません。私の経歴をもっと詳しく言うと、Z(トヨタの車両企画の部署)に呼ばれる前は、スマートキーシステムというのをやっていたんです。

F:スマートキーシステム。あの鍵をポケットに入れたままでも、クルマの近くに行けば普通にドアが開けられるやつ。

:あれですあれです(笑)。あれの初期開発をやっていました。従来の電子部品って、殻の中に閉じこもっていて、あまり他の機能と連携することがなかったんです。でもスマートキーシステムは、当然ドアハンドル(の担当部署)とやりとりしなくちゃいけません。何しろ元々は鍵ですから。そして他にも、ステアリングロックやエンジンスタート、シャシー系の部品やボディ系の部品、そしてボディそのものとも連携しなくちゃいけないんです。あちこちのシステムと連携する必要がある。だから電技(電子技術部)の中では、いろいろな機能と関わる、ということで、さまざまな分野の方と一緒に仕事をさせてもらう機会があったんですね。

勝手にトランクが開いてしまう?

F:なるほど。スマートキーの開発を通して、メカ、エレキ、ソフトと派閥横断的に一緒に仕事をすることができた。

:そうなんです。当時僕がそれをやっているころ、今はウチの副社長をやっている吉田守孝という人が4代目のLSのCEに就任するというタイミングで、ちょうど電技での僕の仕事ぶりを見てくれていて、ああ、こいつ電技の中では珍しく、他の分野と組んで仕事しとるやないか。あいつなら“クルマ”そのもの(の開発)に連れてきても、全体を見ながら仕事ができるんじゃないのか……こう思っていただいたみたいで、それで「Z」に、車両企画部に呼ばれた……という経緯があったんですね。

F:ともすると専門性という殻に閉じこもりがちな電子技術部において、複数の機能にまたがって仕事をして来られた故、クルマ全体を見られるんじゃないか、だから車両の企画もできるんじゃないか、と。

:そんな感じだったのだと思います。

F:旭さん、入社は何年になるのですか?

:私が入社したのは1991年です。最初の配属先は電子技術部の電子実験室という、本当の実験室にいたんです。かつ、電子実験室の中でも特異な分野で、電波関係の仕事をしていました。

F:電波、ですか? ビビビの電波?

:ええ。ビビビの電波です(笑)。大きな電波無響室みたいな部屋があって、その中で、車両から出る電波を測って、例えばそれが欧州の法規に適合しているかとか、日本ではどうかとか計測をするんです。

F:電波というと、出しちゃいけない方ですか。クルマが外部電波から影響を受ける方ではなく、クルマから出る電波を止める方?

:よくご存じですね。両方です。クルマが電波からの影響を受けるのを防ぐ方、クルマから出す電波を止める方の両方です。

F:何か埼玉の方に電波の名所があるらしいですね。近くに大きな電波塔が立っていて、輸入車なんかそこに止めると、強い電波の影響を受けて、勝手にトランクがバーンと開いてしまうと伺いました。各メーカーは、わざわざそこにクルマを持っていって、耐性試験をすると。