高品質かつ高効率なエネルギーの供給を可能にするパワーエレクトロニクス(パワエレ)技術の発展は目覚ましく、近年では電気自動車(EV)や通信・制御機能を付加した電力網(スマートグリッドなどと呼ばれる)などの開発が期待と注目を集めている。パワエレ技術の進化はとどまるところを知らず、いよいよSiC(シリコンカーバイド)をはじめとしたワイドバンドギャップ半導体が実用化を迎えている。

 電気自動車や次世代電力網などのシステムに不可欠な電気回路の1つが電力変換回路である。その設計の際、MOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)などの非線形素子の特性を十分に生かすために、回路シミュレーションは欠かすことのできない技術だ。シミュレーション技術を活用することで回路設計の際の時間的、金銭的コストを大幅に削減できる上に、デバイスごとの特性ばらつきや経年劣化などの影響も容易に評価できる。また、ワイドバンドギャップ半導体の特性を生かした新規アプリケーションの創出にも寄与することになる。

 本コラムでは今回から3回に分けて、SiCパワーMOSFETを用いた電力変換回路の回路シミュレーションについて、筆者らが開発を進めている新技術を解説する。第1回で取り上げるのは、電気特性と熱特性を同時に解析できる回路シミュレーション技術である。

「熱」が大電流・大電圧では最重要

 電気自動車はスマートフォン(スマホ)やパソコンなどとは違い、大電流・大電圧を扱う。例えばモーターの出力が85kW、電源電圧が360Vの場合、約236Aもの電流が流れる。このような大電流・大電圧を扱う回路において最も重要な設計制約は「熱」である。パワーMOSFETはスイッチング時にスイッチング損失を生じる。ドレイン端子からソース端子に流れる電流に生じる導通損失、ゲート端子に寄生する容量成分で生じるゲート電荷損失などがあり、スマホやパソコンなどに搭載されるIC(集積回路)とは比べものにならないほど高い値になる。これらの電力損失は熱として顕在化し、回路特性およびパワーMOSFET周辺に設置された素子に大きな影響を与える。さらに、過剰な発熱はMOSFETの特性劣化の進行を早める原因にもなる。

 従って、高い信頼性が要求される電力変換回路の設計では、設計早期段階でホットスポット(発熱が大きい箇所)を知り、これを考慮した熱設計が必須と言える。しかし、従来は、電気特性については回路シミュレーションを行い、熱特性は電熱解析シミュレーターで計算していた。このように電気特性と熱特性を分けて解析する手法が主流であり、同時に解析することは困難とされてきた。

 我々の研究グループでは、電気特性と熱特性を同時に解析可能な回路シミュレーションモデルを開発している。着目したのは、熱特性と電気特性に類似性があり、熱特性においても電気特性の基礎法則であるオームの法則が成り立つことである。熱流量、温度はそれぞれ電流、電圧、電位差に置き換えて考えられる(表1)。例えば、抵抗は熱の伝わりにくさを示す熱抵抗と考えることができる。開発モデルでは、熱特性を電気回路で模した熱回路を用いることで、回路シミュレーション上で電気特性と熱特性を同時に解析する連成解析を可能にした。

表1 電気特性と熱(温度)特性の類似性
(出所:奈良先端科学技術大学院大学)
電気特性熱(温度)特性
電圧 (V)温度 (°C)
抵抗 (Ω)熱抵抗 (°C/W)
容量 (F)熱容量 (J/°cm3)
電流 (A)熱量 (J)
消費電力 (W)熱流量 (J/s)

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