幹部の後押しが不可欠

[画像のクリックで拡大表示]
(写真:日経 xTECH)

そのギャップを埋めてAIを実務で活用できるようにするには、どうしたらよいでしょうか。

速水氏:ポイントは2つあります。1つは、AI推進チームなど核となるメンバー(コアメンバー)の育成です。これにより、自社の技術レベルを高めます。実務にAIを応用するには、講習などで学ぶAIの基礎技術から、もう少し高い技術レベルに達しなければなりません。応用に持ち込むには、いくつかの典型的な進め方があります。それらを試して経験を積むことが、コアメンバーのスキルアップにつながります。こうしてコアメンバーが育てば、自社の課題解決に最適なAIを造り込めるようになり、解決できる課題もどんどん増えていきます。

 多くの企業にとって、2019年の目標はこのコアメンバーの育成となっています。AIを本格的に展開するためのキーパーソンを育成する年、それが2019年なのです。

 もう1つのポイントは、社内展開です。今、AI推進チームには社内からたくさんの案件が持ち込まれています。現場で困っており、AIを使って何とか解決してほしいと依頼される課題の数々です。これらの課題に対し、コアメンバーがAIによる解決を試みることで社内にAI活用を広めていくのです。この取り組みは、コアメンバーはもちろん、課題を持ち込んだ現場の両方のレベルアップにつながるという利点もあります。

 興味深いのは、コアメンバーを育成し、AI活用を社内に展開できる会社とできない会社があることです。それを分けるのは、幹部のコミットメント(関与)の有無。幹部がAIの価値と技術を十分に理解し、現場を前向きに支えている企業では、AIの実務展開が比較的うまくいっています。しかし、そうではない企業の場合はコアメンバーは頑張っていても、社内への広がりが見られません。2年前はAIの技術の習得は個人単位で済みました。昨年はAI推進のメンバーを集めてチームを組みました。そして、今年はいよいよチームが核となって社内のさまざまな部門や部署にAIを実務展開すべき年です。しかし、幹部の後押しがなければ、社内へ広く展開することは難しいと言わざるを得ません。

 会社はAIに人も資金も投じてきたのですから、今年は目に見える成果を求められるはずです。当然ながら、AI導入の担当役員(幹部)は社長に「AIの取り組みは進んでいます」と言うでしょう。そう聞いた社長は、「それなら、そろそろ成果を報告しなさい」と指示するはずです。コストを何割減らした、人を何人削減できたといった実証結果とまでは言わないまでも、少なくとも「見込めます」や「めどをつけました」と言える水準の成果を見せなければならないでしょう。そのためには、現実的な課題にAIを活用して短期間で結果を出しつつ、難しい課題には並行して長期的な取り組みを進めるべきです。

目に見える成果を求められる段階になっているということは、これからAIに着手するようでは遅すぎるでしょうか。

速水氏:いいえ、そんなことはありません。よく、AI導入に対して「バスに乗り遅れるな」などと表現されますが、そんなふうにはならないと思います。バスに乗るだけなら、すぐに追いつけるものです。どこの企業でもやっているようなことは短期間で実現できますし、そもそも会社によってAIで解決したい課題は異なるものです。

 むしろ、バスに乗り遅れるぞと思ってAIに着手し、先行した気になっている企業の方が危ういと思います。AI活用が進んでいるつもりでも、実はあまりできてないという企業は結構あるのです。それこそ、AIブームに踊らされずに、上述のポイントをきちんと押さえながら覚悟を持ってAIに取り組むことが大切です。

速水 悟 氏 (はやみず さとる)
速水 悟 氏 (はやみず さとる) 1981年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現 国立研究開発法人産業技術総合研究所)。1989年カーネギーメロン大学客員研究員。1994年フランス国立科学研究院機械情報学研究所 客員研究員。2002年 岐阜大学 教授。2017年4月より、工学部 知能科学研究センターセンター長。著書に『事例+演習で学ぶ機械学習 ビジネスを支えるデータ活用のしくみ』(森北出版)、『確率と確率過程』(オーム社)などがある。