人工知能(AI)の応用開発が本格化している。大手企業を中心にAIの導入・試行段階を終えて、目に見える成果を出す企業も現れ始めた。一方で、AIには「万能」のイメージが流布していることや、難解な技術という印象があり、AIで置き換えられる業務を見極めることが難しい。どうすればAIを業務でうまく活用できるのか。そのヒントを、日経 xTECHにおいて「エンジニアのための機械学習・深層学習入門」の講座を持つ、岐阜大学工学部電気電子・情報工学科 教授で知能科学研究センターセンター長の速水悟氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕=日経 xTECH)

あらゆる分野でAIの研究開発が加速しており、AI人材の獲得競争はグローバルで過熱しています。一方で、過去を振り返ると、かつて2度のAIブームがあったものの、いずれも失速しました。現在でも一部にAIに失望する声があるようです。ずばり、今回のAIブームは本物ですか。

速水氏:現在のAIブームは「第3次AIブーム」と呼ばれています。確かに、過去2回のブームはいずれもしぼんでしまいました。しかし、今回は一過性のものではなく、「本物だ」と言えます。理由は、過去のAIブームと比べて技術のレベルが格段に高まっている上に、産業や企業への応用展開の規模が大きいからです。

 技術水準を見ると、物体識別の認識率が人間を超えました。画像認識では、複数の人間の動きをリアルタイムで認識できるようになっています。大勢の人間がばらばらに動いている中で、それぞれの人の形をほぼリアルタイムで認識できるレベルに達しているのです。

 技術水準の向上により、AIはさまざまな用途への展開が見えてきました。しかも、今は高性能なコンピューターなどの計算資源が充実しており、利用環境も整っています。こうした状況がAIの応用活用を試しやすくしており、かつ短期間で結果が出るようにしているのです。

 AIに失望している人は、自分が抱えている課題の解決に直接役立っていないと感じているのではないでしょうか。自分の目的にかなうように使えると実用性の高さを実感できますが、そうではないと失望に変わるというわけです。AIは決して万能ではないので、できることとできないことがあります。

 しかし、一般の人を含めて多くの人は、新しい技術の価値の高さや凄(すご)さを理解しつつあり、明るい未来を感じていると思います。

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岐阜大学 工学部 電気電子・情報工学科 教授、知能科学研究センター センター長 速水 悟氏
(写真:日経 xTECH)

AIの技術が特に進んでいる分野はどこですか。

速水氏:分野ごとに進み方に差があります。既に非常に進歩している分野もあれば、まだまだこれからの分野もあります。さらに、進歩に時間がかかりそうな分野もあります。しかし、進歩は着実に続く。私は、1つの分野ごとにオセロゲームの石が反転するかのように劇的に変化すると思っています。

 技術が特に進んでいるのは、最初にディープラーニング(深層学習)が活用されて非常に性能が向上した3つの分野、音声と画像、そして自然言語です。現在は、これら以外の分野にも広がりつつあり、新しい技術の恩恵を受けて精度が高まって、幅広い用途に使われるようになってきています。

 応用例で言うと、センサーなどの時系列を表す現象を扱う分野では、異常検知と予防保全が重要なテーマになっており、完成度がかなり高まってきています。正常か異常かの識別に加えて、数値的な予測ができ、全体の最適化や自動化に向けた取り組みが進んでいます。技術はどんどん高まっており、これからどんどん伸びていくでしょう。こうした技術進化の可能性が、AIが本物であると見る根拠の1つでもあります。

 ただし、技術の進化の速さと、技術を社会に実装する(業務で実用化する)速さは違います。例えば、製造業では、AIを活用しないと工場が稼働しない「スマート工場」の時代がすぐに来るといった性急なイメージを描く人がいるようですが、そこまで速くはありません。AIを使わなければ工場が全く稼働しなくなるというのは、さすがに言い過ぎでしょう。しかし、スマート工場に向けて着実に進化していることは事実です。その歩みは止まりませんが、時間がかかるということです。