トヨタ自動車とホンダが築いた鉄壁の特許と技術

いわゆるHEV、すなわち数百V以上の電源を使う「ストロングHEV」は日本が強いという話はよく聞きます。しかし、トヨタ自動車がストロングHEV「プリウス」を発売したのは1997年です。それから20年以上が経過しているのに、日本の自動車メーカーに対抗し得るストロングHEVをドイツの自動車メーカーが造れないというのは不思議です。なぜですか。

加藤氏:ストロングHEVはトヨタ自動車とホンダが、非常に強い特許と技術を持っています。確かに、20年以上前に市場投入されたものなので、後発企業は技術のキャッチアップを図ってきました。ところが、後発企業は特許を回避しなければならず、開発に時間がかかります。その間にトヨタ自動車とホンダは技術をさらに進化させているのです。

 例えば、トヨタ自動車のストロングHEVの場合、トランスアクスルに非常に多くのノウハウが詰まっています。トランスアクスルは、モーターと発電機、動力分割機構、減速機構で構成されるストロングHEVの基幹部品です。走行状態や電池の状態などを見ながら、エンジンの動力をタイヤとモーター、電池の充電にどのように配分するかを決める動力伝達システムで、伝達効率にも優れています。構造が複雑で緻密な制御が必要で、かつ高い信頼性で動かなければなりません。そして、何より量産車で造れる低コストを実現する必要があります。これらの条件をトヨタ自動車は満たしているのです。

 このキーデバイスが、ドイツの自動車メーカーや部品メーカーに対して、高い参入障壁を築いてます。高い技術力を持つドイツですら難しいのですから、他の国は推して知るべし、です。中国はEV推しですが、それは自国の自動車メーカーの技術力ではストロングHEVを造れないという判断もあります。

トヨタ自動車のHEV「プリウス」に搭載されたトランスアクスル
ストロングHEVの基幹部品。複雑な構造と制御で競合他社に対して差を付けている。
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では、EVが本格的に普及するのはいつごろからと見ていますか。

加藤氏:主に米国で採掘が進んでいるシェールオイルによって、当面は燃料枯渇の心配はなくなりました。しかし、地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)排出量の規制が今後一層強化され、エンジンだけのクルマ(エンジン専用車)が、エンジンを搭載したHEVやPHEV、EVに徐々にシフトしていくでしょう。その結果、2050年ごろには新興国を除けば、エンジン専用車はかなり少なくなっていくと思います。

 EVが本格的に普及するには、現在のリチウムイオン2次電池から、全固体電池や究極の電池と言われるリチウム空気電池のような次世代電池に替わり、航続距離がエンジン車並みになって、充電時間も数分以内になる必要がある。加えて、電池のコストが下がり、EVトータルのコストがエンジン車並みに安くなって、かつ充電インフラが十分に普及しなければならない。そう考えると、EVの本格的な普及時期は2030~40年ごろではないでしょうか。

 ただし、地球温暖化対策のためにはEV化だけではなく、電力源を大きく変えていく必要があります。電力をつくるまでの過程でCO2排出量の少ない、環境に優しい再生可能エネルギーの普及促進も必要となります。

変化の影響を受ける部品とは?

今後、EVが増えていくとどのような部品メーカーが影響を受けるでしょうか。

 エンジン車が減ってEVが増えていくと、従来のパワートレーン関係の部品メーカーにとっては大きな問題になる。エンジンや変速機、燃料タンク、マフラーなどの部品がなくなっていく半面、電池関係やモーター、インバーター、コンバーター、モーターとインバーターと減速機の3つを1つにまとめた小型の電動パワーユニット(eアクスル)、パワー半導体、軽量化素材、電動エアコン関係部品などの製造を巡る新しいビジネスも生まれます。

 部品メーカーは今後、EV化の動向を正しく見定め、自社の強みを生かしながら新たな製品つくりを進めていくことが、この業界で成長していくために重要だと思います。まだまだいろいろと話したいことがありますが、NHKの大河ドラマ「西郷どん」のナレーションにあやかって「今宵(こよい)はこの辺でよかろうかい」。詳しくは「技術塾」で話しますので、興味がある方はぜひご聴講ください。

加藤 克司(かとう・かつし)
K&Kテクノリサーチ 代表、ワールドテック 講師
1973年、日本電装(現デンソー)に入社後、排ガス対策、燃費向上技術を中心とする燃料噴射装置、エンジン制御システム(EMS)開発、エンジンやトランスミッションを含むパワートレーンシステム開発、および開発室長として国内外の多くの自動車メーカーの新型車、新エンジン向けEMSの開発・拡販活動を担当。その後、2007年からタイの初代デンソーテクニカルセンター長を、2010年からは新興国向け開発プロジェクトのグループリーダーを歴任。従来の経験、知見を生かしながら、国内外の種々の講演会でパワートレーンの今後の動向を中心に講師を担当している。