自動車のパワートレーンは今後、どのように動いていくのか。環境規制の強化に各国の政策、さらに独フォルクスワーゲン(Volkswagen)が起こした排出ガス不正問題の影響が絡み、パワートレーンの先行きは一層見えにくくなっている。関連する部品や材料メーカーは事業戦略をどのように見極めたらよいのか。「技術者塾」において「事業戦略を見極める 世界の自動車用パワートレーンの最新・将来技術と規制動向」(2018年12月13日)の講座を持つK&Kテクノリサーチ代表でワールドテック講師(元デンソー)の加藤克司氏に聞いた。その前編。(聞き手は近岡 裕=日経 xTECH)

パワートレーン 自動車のエンジンなどの原動機が発生する回転力を駆動輪へと伝える役割を担う装置類。エンジンやクラッチ、トランスミッション(変速機)、プロペラシャフトなどを含む動力伝達装置の総称である。

元デンソー K&Kテクノリサーチ代表 ワールドテック講師の加藤 克司 氏

パワートレーン分野において今、注目すべき動きは何ですか。

加藤氏:最近の自動車産業は100年に1度と言われる大きな変革期を迎えています。コネクテッドや自動運転、シェアリング、電動化の4つのキーワードの頭文字を合わせた「CASE」という大きな潮流が押し寄せています。その1つである電動化(Electric、xEV)の対象となるクルマのカテゴリーには、[1]電気自動車(バッテリーEV、BEV、レンジエクステンダーEV含む、以下EV)、[2]ハイブリッド車(HEV)、[3]プラグインHEV(PHEV)、[4]燃料電池車(FCEV)、の4種類があります。電動化の流れは今後、さらに世界で広がっていくと思います。

 もう1つ注目すべき点は、パワートレーンの熱効率向上の動向です。地球温暖化対策を考える上で重要な、クルマから排出される二酸化炭素(CO2)排出量の規制が今後ますます厳しくなっていくのです。CO2排出量を低減していくためには、電動化に加えてもう1つ重要な取り組みがあります。それが、パワートレーン系の熱効率向上(省燃費)技術で、各自動車関連企業が一層の熱効率向上に取り組んでいます。

 電動車の中でもHEVとPHEVはエンジンを搭載しています。最も多くHEVを生産しているトヨタ自動車は、「2030年になっても、550万台の電動車のうちの450万台には(HEVやPHEV用として)エンジンが搭載される」と言っています。世界のCO2排出量規制のうち、CAFE(企業平均燃費)規制値をクリアできない自動車メーカーは、罰金を科されるか、クリアできているメーカーからクレジットを購入する必要があります。そのため、HEVやPHEVに搭載するパワートレーンの熱効率も高めなければならないのです。

その電動車の中でも、EVの今後の動向に最も注目が集まっているように思います。EVの今後についてどう見たらよいでしょうか。

加藤氏: 2025~30年といった短いスパンで考えると、EVが世界で主流になるとは考えにくいでしょう。ただし、国によって事情は異なります。中国は世界一のEV大国を目指し、強力なEV政策を推し進めています。2030年ごろには、中国で販売される小型車の約30%がEVになる見込みです。しかし、それ以外の国では、それほど急速に普及しないでしょう。私は、10%にも達しないと予測しています。

 EVの幅広い普及を考える上で、最大の課題は電池です。ガソリン車と比べると、現在の電池を使用するEVはまだまだ使い勝手が良くない。まず、EV航続距離(1充電後の航続走行可能距離)が短い。最近のEVの平均航続距離は300~400kmですが、ガソリン車のざっと半分です。しかも、これはある決められた走行モードをエアコンオフの状態で走行した時の「公称値」であり、実際に市場で走行すると7~8割程度の航続距離しか得られません。

 最も大きな要因はエアコンです。エンジン車では暖房時にエンジンが発生する余剰熱量を有効利用していました。ところが、EVではエンジンと違って大きな熱源がないので、室内の暖房や冷房のために電池の電力を多く使うヒーターかヒートポンプ式エアコン、電動コンプレッサーを使っています。ですから、EV航続距離が2~3割下がるのです。

日産自動車のEVや「リーフ」に搭載したリチウムイオン2次電池パック
電池容量は40kWhで、1充電航続距離はJC08モード燃費で400km。
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 さらに言えば、高速道路を走ると一気に航続距離が落ちます。高速領域でトルクが下がり、航続距離が短くなるのです。高級EVの中には200km/時以上の高速で走行できるクルマもありますが、一般的なEVは低速重視であり、高速走行は難しいのです。