トヨタの論文を見てみた

どのような企業がSciValを使っているのでしょうか。

恒吉氏:例えば、英蘭ユニリーバ(Unilever)です。他は名前を紹介できないのですが、いずれも大手の自動車メーカーや製薬メーカー、航空機メーカー、電機メーカー、通信企業などでSciValを使っています。海外企業ではここ2年ぐらいで導入が進みました。日本企業は1割未満です。

 海外企業の方が、競合に後れを取りたくないという危機感が強いように思います。スピード(を生むツール)と情報に投資する企業が多いからです。日本企業と比べると海外企業では人材の流動性が高いため、暗黙知の蓄積が難しいという傾向があるからでしょう。これに対し、日本企業では暗黙知の積み重ねがあり、経験や勘といったものがこれまでのビジネスで効力を発揮してきたのかもしれません。

 いずれにせよ、SciValを導入した海外企業はそれを時間短縮、スピードアップの原動力として活用しています。

例えば、自社と競合する企業など、特定企業の論文も調べることができるのでしょうか。

恒吉氏:はい。特定企業の論文も調べることができます。

では、日本の製造業を代表する企業であるトヨタ自動車の論文を調べてみてください。

恒吉氏:例えば、2012~2018年の約6年間を見ると、トヨタ自動車の名の下に出されている論文は1216本あります(図1)。分野は「工学」「材料」「物理」「環境科学」が多く、インパクトを見ると「物理」「環境科学」が高い。興味深いところでは、「バイオ」分野では論文数は少ないのにインパクトが高いことです。

図1●トヨタ自動車の論文を調べた。2012年からの約6年間で1200本あまりが出されている。
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 トヨタ自動車と大学との共著論文の割合は「63.8%」の776本と、過半数を超えています。ただ、トヨタ自動車と共に日本の「ビッグスリー」であるホンダは60%弱で、日産自動車は61%ですから、大学と共同研究する率は3社であまり差がないようです。ところが、世界のライバル、例えばドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen)を調べると、「77.8%」と大学との共著論文の割合が8割に迫っています。ここまで率が高いと、産学連携が基本と表現した方が正しいかもしれません。

 続いて、トヨタ自動車が出した論文のうち、AI関連するトピックを抽出してみます。37のトピックがありました。この中からキーワードを調べていくと、「歩行者検知」「ロボティクス」「ロボット」「クラウド」「ジェスチャー認識」「制御」「ドア」といったキーワードが出てきます。ここから、トヨタ自動車は自動運転やロボットと人のコミュニケーションにフォーカスしているのではないかと推測することができます。もちろん、企業によっては戦略的にあえて論文を出さないケースもありますが、SciValを使えば少なくとも論文を調べることができるのです。

 これを生かせば、競合企業がどのような開発に力を入れているかを分析できます。現在流行のオープンイノベーションを進める際に、パートナーとして適した企業・大学を探すことにも使えます。

 先のUnileverでは、研究開発部門が自分たちの研究成果を本社に報告する際にも、SciValを利用しています。論文の本数や、強い分野、インパクトの高い論文が何本あるかを客観的に示すために使っているのです。

 他にも、SciValは自社を顧客に売り込むシチュエーションや、M&A(企業の合併や買収)の場面などでも活用できます。

オープンイノベーションにはどのように生かすのでしょうか。

恒吉氏:例えば、トヨタ自動車が自社のAIをもっと強化したいと考えたとします。トヨタ自動車のトピックを調べると、キーワードに「ドア検知」というトピックがあり、そのトピック関連でトヨタ自動車は論文を2本出しています。では、ここでどのような企業がパートナー候補となるか。調べると、世界にはこのトピックで111本の論文が出ています。このうち、2本がトヨタ自動車なので、残りの109本を調べれば、パートナー候補を探すことができます。

 大学や企業の具体的な名前が分かるのはもちろん、論文の多さや、インパクトの高さも国や大学別に見ることができます。著者の名前ももちろん分かります。こうしてパートナーとなり得る企業や大学、各種研究機関、キーパーソンを探し出し、オープンイノベーションや共同研究につなげていくことができます。