人工知能(AI)や深層学習の鍵を握るのが、量子コンピューターに代表される次世代コンピューターだ。複雑な最適化問題を簡単なプログラムで高速に解くことができる。こうした次世代コンピューターを産業に応用するためには、そこに使われている計算技術を理解し、何ができて、何ができないかを正しく認識することが必要だ。日経BP社は「量子アニーリングが加速する最適化技術と機械学習」と題したセミナーを、技術者塾として2018年4月18日に開催する(詳細はこちら)。量子アニーリングは、次世代コンピューターの1つである「D-Waveマシン」に用いられている新しい計算技術である。本講座で講師を務める大関真之氏(東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 応用情報論技術講座 准教授)に、D-Waveマシンの可能性や、量子アニーリングを学ぶ意義などについて聞いた。(聞き手は、田中直樹)

D-Waveマシンとは。その特徴は。

 カナダのベンチャー企業のD-Wave Systemsが開発した次世代コンピューターで、「量子アニーリング」と呼ばれる計算手法を実装したものです。このマシンは、複雑なパズルのように様々な可能性を検討しながら時間をかけて解かなければならない最適化問題を、難しいプログラムを必要とせずに、高速に解くことができます。

 現在のD-Waveマシンはまだ、小規模の最適化問題を解くことしかできません。大規模な最適化問題を解くためには、小規模に分割しながら解くことになります。そのために生じる問題はあるものの、D-Waveマシン自体の改良の余地はまだ多くあります。

なぜ今、D-Waveマシンや量子アニーリングについて学ぶことが重要なのですか。

 D-Waveマシンは急速に進化しています。現実的な応用が可能になる時代がすぐにやってくるでしょう。そうなってから量子アニーリングを学び始めても遅いのです。D-Waveマシンの進化に先んじて、量子アニーリングという計算技術を効率よく使うためのノウハウを蓄積し、ユーザーとしての感性を養っておくことが重要です。

 D-Waveマシンには、低消費電力という特徴があります。人類が直面している問題の1つに、ITの基盤に利用される消費電力の増大が挙げられます。ブロックチェーン技術の利用により、さらに消費電力の増大が加速しているそうです。そこで、省電力な計算技術が求められています。

 D-Waveマシンでは、計算を実行している電気回路の基礎部分に超電導を利用しており、非常に小さな消費電力で動作します。その意味で、計算能力がまだ赤子のようなものであったとしても、消費電力を抑えるために部分的に既存の計算基盤を置き換える場面が登場すると期待されています。どのような計算を量子アニーリングで置き換えるのか。それを考えることが必要なのです。

量子アニーリングの応用としては、具体的にどのようなことが考えられているのですか。

 現在期待されているのは、工場の製造プロセスや流通の最適化です。事業の効率化に直結します。この他にも身の回りには、感覚的に済まされていた、どう考えても無駄な課題はたくさんあるはずです。それを解決する「最適化問題」を効率的に解く。それが量子アニーリングです。

 最適化問題を解くことによって得られる回答は、効率的な業務を策定する上でも必要です。働き方改革などの社会的課題の解決につながる可能性を秘めています。

 しかも、先ほど述べたように、非常に小さな消費電力で最適化問題を解くことができます。人類が直面している重大問題として「ITの基盤技術に利用される消費電力の増大」がありますが、その解決策になり得ると期待されています。