2018年9月14日付日本経済新聞によると、国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、のれんを償却対象にする検討を始めたそうだ。IASBのハンス・フーガーホースト議長が日本経済新聞の取材で明らかにした。2021年にも結論を出すとのことだ。

 M&A(合併・買収)に伴って発生するのれんの会計処理を巡っては、日本基準が最長20年以内の償却を義務付ける一方、IFRSでは償却対象外となっている。両会計基準の大きな相違点の1つとして、かねてより注目の高いところだった。

 実は、米国基準もIFRSも、かつてはのれんを償却対象としていた。米国基準は40年以内、IFRSは20年以内に償却することになっていたのだ。米国基準やIFRSを横目で見ながら国内の会計基準を改正してきた日本の当局が、これに倣(なら)ったのは言うまでもない。それが、米国基準は1999年、IFRSは2004年に制度改正され、のれんを償却対象外とした。日本の当局はそれには追随しなかったので、欧米の基準と日本基準に相違ができてしまったのである。

のれんは会計情報に表れない主観的な魅力

 のれんの償却に関して、なぜこんなにも償却するかしないかで揺れ動くのだろうか。それを理解するためには、そもそものれんとは何かを理解する必要がある。

 教科書的には、「のれんとは超過収益力」などとよく説明されている。だが、そんな一言で片付けられてもよく分からないだろう。のれんはM&Aに伴って発生する。M&Aとは、具体的には合併や株式買収による子会社化だ。いずれの場合も、やっていることは会社という組織の売買だ。会計ではこれを「貸借対照表の売買」として捉える。売買できるのは財産だけであり、会社の売買の場合、会社の財産一覧表である「貸借対照表の売買」と考えるしかないからだ。

 ある企業の株式の60%を取得する場合を考えてみよう。株式に付けられる会計上の値札は正味財産である純資産の60%相当額だ。ところが、この値札通りの金額でこの会社を買う人はまずいない。多くの場合、この値札以上の価格で買う。なぜならば、買い手が考えるその会社の価値は会計情報だけですべて表現されているわけではないからだ。例えば、その企業の技術力や将来性、主戦場としている市場や顧客層などにも価値を見出すはずだ。

 それらの価値はいずれの会計情報にも表れてこない。会計上の値札以上のお金を出してM&Aで企業を手に入れた場合、その超過額をのれんというのだ()。のれんとは、買い手がその企業に対して感じた主観的な魅力ということだ。

図●のれんは主観的に感じた企業の魅力
作成:ブライトワイズコンサルティング合同会社

 M&Aは企業どうしの結婚のようなものであり、のれんは結婚を決める理由に似ている。ある人と結婚する理由は、身長、勤務先、趣味などの釣書に書けるようなことだけではない。言葉では明確に説明しきれない何らかの魅力を感じて結婚を決めるものだ。この「言葉では説明しきれない何となく感じた魅力」を、まとめて「のれん」と言っているのである。

 主観的ではあるが、M&Aの買い手はそれだけのお金を出しても将来に役に立つと思っている。そして会計上は、のれんという名の無形の魅力をとりあえず資産(=将来のキャッシュを増加させるポテンシャル)に計上することを認めている。ここまでは、すべての会計基準に共通だ。

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