2018年春に開かれた隈研吾氏の作品の展覧会。その会場には、今回構造エンジニアが紹介する「V&Aダンディー美術館」の外壁に使われたプレキャストコンクリート(PCa)のピースが展示されていた。想像していたより大きくて、重い。設置するのが大変そう。そんなことを感じたのを思い出す。しかし、実際にそれらのピースが設置された場所は想像をはるかに超える過酷な環境であった。見るだけ、訪れるだけでは分からないストーリーがあり、だから建築は面白い。この連載のテーマを地で行くような舞台ウラの紹介だ。(菊地 雪代/アラップ)

原風景へのオマージュ

 エディンバラから北へ電車で1時間。英国スコットランドの中央部、北海に流れ込むテイ川に面するダンディーは、エディンバラ、グラスゴー、アバディーンに次ぐスコットランド第4の都市である。

ライトアップされた全景(写真:©Ross Fraser McLean)
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 2010年にスコットランドで初となるデザイン・ミュージアムのための国際コンペが開かれ、アラップは建築家の隈研吾氏と共に参加した。敷地はテイ川のほとり、かのロバート・スコットが南極探検に使った調査船ディスカバリー号が停泊する港のすぐ横であった。

 「テイ川に張り出して建てる」というコンペの要項に、隈研吾氏はスコットランドの“崖”をオマージュとしたデザインで応えた。街の軸線とディスカバリー号の軸線に合わせて2つのボリュームがねじれながら絡み合い、川に向かって張り出すという、とびきり複雑な形状の“崖”で。

 ここからアラップのエンジニアリングの挑戦が始まった。

複雑な形状の外壁(写真:©Ross Fraser McLean)
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