日本のオフィスビルでは、1フロアの面積を可能な限り大きく取るため、外壁から奥行きの深いプランとすることが少なくない。だが世界的には、快適性やウエルネスに配慮し、外部への視線の確保や自然光の活用を図るため、オフィスの奥行きを限定することが多い。今回、アラップ東京事務所のライティングデザイナーが紹介する、韓国の「アモーレパシフィック新本社屋」は、巨大な立方体に自然光を導き、軽さや透明感を確保している。そのヒントは韓国の伝統家屋「韓屋」にあった。環境配慮、エレベーター計画、照明システムなど、革新的な取り組みにも注目したい。(菊地 雪代/アラップ)

 1945年創業のアモーレパシフィックは、傘下にいくつものブランドを有する韓国最大の化粧品メーカーだ。その本社ビルが2017年の秋に竣工し、ソウル・龍山区にて、英国人建築家、デイビッド・チッパーフィールド(DCA)の設計によって新しく生まれ変わった。

 地下7階・地上22階建て、高さ110mの立方体形状のタワーは、中庭を中心に据えた空間構成で、外装に特徴的なルーバーをまとう。建物には、8万m2のオフィスに加え、地下展示空間やレストラン、店舗、450席のオーディトリアムがある。米国の建築物の環境性能評価システムであるLEEDでゴールドの認証を受けている。現地の気候や文化的特徴を生かしたこの建物には、ファサードや照明、自然換気、エレベーターシステムなどに革新的なパッシブデザインが組み込まれている。

ソウル中心部に立つアモーレパシフィック本社(©Noshe)
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韓国伝統建築をヒントにしたオフィス環境

 建物中央に中庭を配置したレイアウトは、中庭周りに住居空間を展開する韓国の伝統家屋「韓屋」から発想を得たものだ。建物中央を貫く吹き抜けにつなげる形で、建物の5階と11階、17階の3カ所で水平方向に高さ5~6階分の大きなボイド(空洞)を設けている。ランドスケープが施されたテラスからは、ソウルの街並みをフレーミングするような眺望が楽しめる。建物中心に開放的な空間をつくり出すことで、オフィス内に昼光や自然換気の導入を可能にした。執務環境の快適性や知的生産性の向上にもつながる。

 水平方向に設けたボイドの位置は、卓越風の方角や地上部からの騒音を考慮し、モデルを使った最適化設計により決定した。例えば、南東方向に面して龍山公園を望む5階のボイドは最も大きい。卓越風の風向を考慮して、ここに開口を設けることで、ファサードからの下降気流がメインエントランスに影響することを軽減している。また、幹線道路側に面する11階のボイドは、音の距離減衰により、中庭への交通騒音を制限している。街を見渡し、近郊の山並みも望める17階のボイドは、卓越風や下降気流の影響が少ない北東側に配置した。

四季を通して日差しが得られる中庭には、深さ70mmの水盤の底にガラス床を設け、その下のアトリウム空間への採光を確保した (©Arup)
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