北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の工学系学部および研究科などによって構成される「八大学工学系連合会」は、学生の就職・採用活動問題の解決に向けた提言として「八大学工学部長会議声明」を発表した(図1)。今回の声明の背景には、工学系の学生を指導する大学教員の「就職・採用活動問題に対する強い危機感」(八大学工学系連合会会長、東北大学大学院工学研究科長 教授の長坂徹也氏)がある。

図1 八大学工学部長会議声明を発表
(写真:日経 xTECH)
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 発表の場となった同会主催の公開シンポジウム(2019年11月27日に都内で開催)では声明に先立ち、まず就職活動の実態調査の結果が報告された。同調査では、学生に対してウェブ上でアンケートを実施。就職活動の期間、学校推薦、インターンシップの利用などについて聞いた。8大学の工学系研究科に在学中で、2020年4月入社予定の大学院生(修士課程)に回答を依頼し、1029人から回答を得た。アンケート実施期間は2019年10月10日~11月6日であり、直近の状況を反映していると言える。

時間も費用も、学生の負担が大きい

 この調査で改めて浮き彫りになったのが、多くの学生が就職活動にたくさんの時間と費用を費やしている実態である。就職活動の開始時期を尋ねる質問では、61%の学生が修士課程1年(M1)の12月以前からと答えた(図2)。「11~12月ごろから、研究室や授業を休んで、就職活動をする学生が増えてくる」(長坂氏)という。

図2 6割を超える修士課程の学生がM1の12月以前に就活を開始した
(データの出所:八大学工学系連合会が2019年10~11月に実施した「八大学工学研究科 就職活動実態調査」)
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 また、東京の企業を訪問するためにアルバイトをしている学生も多い。今回のアンケート対象とした8大学の学生の中で、特に就職活動費の問題が切実なのが北海道大学と九州大学の学生である。アンケート結果によると、両大学の学生のうち、就職活動に10万円以上を負担した学生が53%もいた。30万円以上を負担した学生も17%にのぼる(図3)。地方の学生は、就職活動で東京の企業を訪問するためにアルバイトをしている学生も多いという。

図3 就職活動に費やした費用
(データの出所:八大学工学系連合会が2019年10~11月に実施した「八大学工学研究科 就職活動実態調査」)
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 就職活動の長期化も学生の負担になっている。アンケートの結果、就職活動に延べ1カ月以上の日数を費やす学生が4割にのぼることが分かった(図4)。「複数の会社から内々定や内定をもらおうとする傾向が強まっており、就活の長期化につながっている」(八大学工学系連合会)という。今回の調査では、自由応募の採用においては、全体の5割に迫る学生が複数の会社から内々定を得ていたことが明らかになった(図4)。

図4 複数の企業から内々定や内定をもらうことで、就活期間が長期化
(データの出所:八大学工学系連合会が2019年10~11月に実施した「八大学工学研究科 就職活動実態調査」)
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インターンシップに振り回される

 インターンシップが実質的に就活の長期化につながっている面もある。多くの理系大学院生が就活を始めるのはM1の12月ごろだが、これに先立ち、M1の夏休みに企業のインターンシップへ参加する学生も多い。今回のアンケートによると、8割を超える学生が企業のインターンシップ参加したと回答した。1年前のアンケートでは7割であり、この1年で約10ポイント増加した。参加回数が3回以上の学生は6割近くに達した(図5)。

図5 8割を超える修士課程の学生がインターンシップに参加
(データの出所:八大学工学系連合会が2019年10~11月に実施した「八大学工学研究科 就職活動実態調査」)
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 ある大学教授は、10社ものインターンシップに参加したM1の学生がいたと打ち明ける。その学生は“インターンのプロ”のようになり、4社目あたりからは、企業訪問前から説明内容が予測できるようになった。しかしそれでも、機会がある限り次々に受けないと就職に不利になると考え、不安を抱いていたという。その様子を間近に見た後輩も“洗脳”され、繰り返されていくというのだ。「企業のインターンシップに学生が振り回されている」と、大学教員の目には映る。

 大学側が問題視するのが、本来はキャリア教育の一環であるインターンシップに、採用活動の要素がコンタミネーション(混入)している現実だ。現在のインターンシップの実態に疑問を持つ大学教員は多い。充実したインターンシップが行われている一方で、わずか1日の実施期間で企業の説明を聞いたり見学したりするだけの内容にとどまるものも目立つという。

 今回の学生アンケートによると、6日間以上のインターンシップを受けている学生が4分の1程度いる一方で、3割の学生は1日の「ワンデーインターンシップ」を受けていた。こうした1日のインターンシップは、企業による研修を受けるのではなく、採用活動の色彩が強い説明会型や見学会型のものが多いという(図6)。

図6 3割が「ワンデーインターンシップ」
(データの出所:八大学工学系連合会が2019年10~11月に実施した「八大学工学研究科 就職活動実態調査」)
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