2019年11月13日、地球への帰還に向けたフェーズに入った宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」――。JAXAの計画通りなら、現在は、同年12月3日以降のイオンエンジンの本格運転に向け、イオンエンジンの試運転(同年11月20日~12月2日)を実施し、イオンエンジンに問題はないか、チューニングは必要かの確認を実行中のはずだ(図1イオンエンジン)。

図1 はやぶさ2のイオンエンジン
図1 はやぶさ2のイオンエンジン
イオンを噴いて推進力を得る推進装置。燃料となる推進剤(キセノンガス)をプラズマ(電子と陽イオンに分かれて自由に運動している状態)にし、陽イオンとなった推進剤を静電場によるクーロン力で加速して噴射する。(撮影:日経テクノロジーオンライン)
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 こうした試運転がなぜ必要なのか。はやぶさ2プロジェクトチームプロジェクトマネージャの津田雄一氏によれば、例えば小惑星「リュウグウ」へのタッチダウンの際に、イオンエンジンのスラスターそのものはもちろん、スラスターそのものではなくてもその周囲が砂をかぶっていたら、イオンエンジンは悪影響を受ける可能性があるからだ(図2)。

図2 はやぶさ2プロジェクトチームプロジェクトマネージャの津田雄一氏
図2 はやぶさ2プロジェクトチームプロジェクトマネージャの津田雄一氏
2019年11月12日開催の記者説明会で撮影。右が津田氏。中央は同チームミッションマネージャの吉川真氏、左がJAXA宇宙科学研究所研究総主幹の久保田孝氏。(撮影:日経 xTECH)
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 「スラスターの周囲に砂をかぶっていたら、探査機本体の温度環境が少し変化したり、日なたか日陰かの関係が変わったりする可能性がある。設計上は心配していないが、そうしたちょっとしたことにイオンエンジンは影響を受ける恐れがある」と同氏は打ち明ける。試運転を実施して必要になれば、イオンエンジンにチューニングを施すという。

 はやぶさ2がイオンエンジンを始動するのは、リュウグウ到着を前にした2018年6月上旬に同エンジンを停止して以来の約1年5カ月ぶりのことだ。津田氏によれば、これほど長期間停止させてからの再始動は、はやぶさ2チームにとっては初めての経験。こうした点も不安要素となっている。

毎日変わるイオンエンジンの調子

 はやぶさ2チームがこれほどまで慎重にイオンエンジンの本格的な再始動に向けて準備を進めるのは、同エンジンが非常に繊細だからだ。その繊細さは、「イオンエンジンの調子は、1日1日変わる」と津田氏が表現するほどだ。

 このため、イオンエンジンの本格的な再始動が叶(かな)った後でも、はやぶさ2チームは代わる代わる同エンジンを見守り続ける必要がある。具体的にはまず、イオンエンジンの調子をできる限り良い状態に保つ。加えて、毎週毎週、軌道計画を計算し直すことが不可欠という。「イオンエンジンの調子がいつも保たれているように努めるが、そうは言ってもイオンエンジンの調子は日々変わる。日々の調子の結果を踏まえて、今探査機がどこを実際に飛んでいるのかを計測し、その結果を受けて残りの軌道計画をもう1回計算する」(同氏)。これは「結構大変な作業」と同氏は吐露する。

 「イオンエンジンの調子は、温度環境や高圧電源の調子、燃料の流量などいろんなものに左右される。その状況に適したさまざまなパラメーターを設定しなければいけない。復路では、ほぼイオンエンジンを見続ける作業になる」(同氏)という。

 先に、イオンエンジンの試運転で必要に応じてチューニングすると紹介したが、そのチューニングとはパラメーター設定の調整のことである。「設計時に、こういう状況ではこういう設定にするというのを全て決めている。だが、実際の調子によってそれらに微修正を加えることで、やっと正しく動く」と同氏は明かす。「イオンエンジンは、手放しで放っておいても自動で運転してくれるというところまではいっていない」(同氏)のである。

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