3Dセンシング(立体画像認識)技術の応用範囲が広がりを見せている。スマートフォンの顔認証機能やゲーム機のジェスチャー認識にとどまらず、産業機器に使われ始めた。サプライヤーは、従来の日米欧、イスラエルの企業に加え、台湾や中国からも出てきた。半導体を手掛けない企業もあり、立体認識システムの開発がしやすくなった。

 米アップル(Apple)がスマートフォン「iPhone X」(2017年発売)に載せたロック解除機能「Face ID」のように、深さ(奥行き)データを持つ立体画像で認識精度を段違いに高める。こうした立体(3D)画像認識技術が普及期に入った注1)。用途は、膨大な出荷台数のスマートフォンなどだけではない。靴底貼り付けの前処理や宅配便荷物の寸法計測といった多品種少量の産業機器分野に及ぶ。

注1) 立体画像認識技術を早期に世に知らしめたのは米マイクロソフト(Microsoft)のゲーム周辺機器「Kinect」である。Microsoftはイスラエルのプライムセンス(PrimeSense)の技術を採用し2010年に発売した。PrimeSense は2013年にAppleが買収した。

 多品種少量の分野への展開が可能になったのは、サプライチェーンや開発環境が充実したからだ。半導体メーカーだけでなく3Dカメラモジュールや認識ソフトウエアを手掛ける多数の企業が競い合っている注2)。産業機器メーカーにとって、外部調達しやすい環境になったと言える。実際、「認識ではなく光源に人員をつぎ込む」(台湾の監視カメラメーカー)と、認識技術の自社開発から戦略的に撤退する企業が現れている。

注2)3Dカメラモジュールを英語圏では「depth camera」と呼ぶことがある。

モノクロ30万画素で追跡

 立体画像認識に向けたサプライヤーや開発環境を具体的に見てみよう。使われそうな機能を全て載せた高性能で汎用性の高い開発キットが幾つかある。開発者が試作後、用途に応じて部品を省いたりグレードを下げたりするものだ。その1つ「Robotics RB3」は、米クアルコム(Qualcomm)のスマートフォン用プロセッサーをコアとする(図1)。

図1 3Dセンシングモジュールの構成例
Qualcommの3Dセンシング開発キット「Robotics RB3」の内蔵部品や対応する開発環境を示した。このキットは性能への評価が比較的高い部品を内蔵しており、QualcommとThundersoft(中科創通)が設立したThundercomm(創通聯達)が市販している。(図:筆者、画像:Qualcomm)
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 Robotics RB3の「Basic Kit」はCMOSイメージセンサーを2種類備えている注3)。うち1種類は有効画素数がわずか30万のモノクロ。しかし動体を撮っても被写体ブレが起きにくい(被写体追跡の時間解像度が高い)。全画素の同時一括読み出しができるからだ。追跡モジュールは中国Sunny Opotech(舜宇光学)製、撮像モジュールは香港Truly Opto-Electronics(信利光電)製である。

注3)CMOSイメージセンサーは中国OmniVision(豪威)のものだが、同社が米国政府の「国防権限法」の対象企業となる可能性はまだ高くない。同法は指定企業の製品の購入や使用を禁じるもので、米国政府はこれまで半導体ではなく電子機器(通信機器や監視カメラ)メーカーを指定してきた。なおOmniVisionの親会社は2019年7月、中国投資ファンド連合から中国WillSemi(韋爾)に変わった。

 立体画像認識機能は、オプションの台湾Altek(華晶)によるカメラモジュール「SLM Camera」を組み合わせて実現する。同社は、三洋電機(現パナソニック)のデジタルカメラ事業部(現ザクティ)のようにASSP(Application Specific Standard Product)設計とEMS/ODM(機器の設計製造受託)をもともと手掛けており、2012年の生産台数は1000万台超だった。2014年以降は収益の柱をデュアルカメラモジュールとし、“老舗”の地位を得ている。測距方式はステレオカメラとストラクチャードライト。後者は照射した赤外線による固定パターンの歪みを利用する。

 同じくオプションのモジュールの「ToF Camera」は、パナソニックのToF(Time of Flight)センサーを内蔵する。変調した赤外線光を発して対象物がそれを反射し入射するまでの時間を測る。ToFは、入射光が少ないと測距不能になりやすいが、パナソニックはアバランシェフォトダイオード(APD)で克服した。APDは入射光に対して通常より大幅に多い電子を出力する。

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