同志社大学 大学院 理工学研究科 教授の盛満正嗣氏は、亜鉛(Zn)やリチウム(Li)など金属負極を用いた2次電池を充放電させた際に負極上に樹状突起(デンドライト)が形成される課題を解決する技術を開発したと発表した。想定する応用先は、電気自動車(EV)やPHEV向け2次電池。「現在のEVやPHEVの1充電走行距離を1.5~2倍にできる可能性がある」(盛満氏)。

デンドライトがなければ“革新型電池”が現実に

 デンドライトは金属負極を用いた高容量密度の2次電池の開発に数十年も付きまとっていた課題。これが解決すれば、「革新型電池」とも呼ばれる金属空気電池などの実用化に向けて大きな一歩となる。

 例えば、Zn空気電池の理論上の体積エネルギー密度は電解液別で約9700Wh/L、重量エネルギー密度は同1370Wh/kg。実用的なセルでも、重量エネルギー密度500Wh/kgは期待できるため、既存のLiイオン2次電池(LIB)セルの高性能品の約270Wh/kgに対して、約2倍。体積エネルギー密度はセルでもLIBに対して2倍以上に優位性が高いとみられるため、航続距離重視のEVであれば、800k~1000kmの実現が見えてくる。

 より短期間での実用化が見込める亜鉛ニッケル(Zn-Ni)2次電池でも、PHEVなどの電池単独での航続距離を1.5倍以上に伸ばせる可能性があるとする。電気自動車(EV)やドローンなどの電池の課題を大きく解決する技術になりそうだ。

“横”の動き抑制がカギだった

 盛満氏の研究室が開発したのは、Zn負極から溶解したZnイオン(Zn(OH)42-)が水系の電解液中を“横”に泳がないようにする技術。“横”というのは、電池の正極と負極を貫く法線方向を“縦”とした場合の“横”。つまり、負極面に沿った方向を指す。

 盛満氏は「これまでイオンは、充放電の際、縦にだけ動くものという思い込みがあった。しかし、実際にはイオンは横にも大きく動いて、イオン濃度の不均一化を加速してしまう。そしてそれがデンドライトにつながる」。逆にイオンの横の動きを抑制できれば、デンドライトの成長を防げるのではないかと考えたとする。

充放電サイクル5500回でも性能劣化なし

 そこで実際に、1辺が数cmのZn-Ni2次電池セルに、上述のイオンの横の動きを抑制する工夫を施して試作したところ、1C(1時間で充電)のレートで充放電を5500サイクル繰り返しても、デンドライトの成長による容量の低下や短絡が起こらなかったとする。

 5500サイクル後の初期容量からの容量低下は約90%。放電電圧や充電電圧も初期サイクル時以外はほとんど一定で約1.6Vだった。「5C(12分で充電)や10C(6分で充電)という急速充放電でも1.5V以上の電圧を維持した」(盛満氏)。充放電後の負極表面は均一性が保たれ、デンドライトは形成されていなかった。

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開発した技術を盛り込んで試作した亜鉛ニッケル(Zn-Ni)2次電池の充放電特性
開発した技術を盛り込んだセル(左)は5000回充放電を繰り返しても、充電/放電電圧が大きく変わらない。一方、従来型のセルでは7回でデンドライトが内部短絡し、電圧が大きく不安定になっている。(写真:同志社大学のスライドを日経xTECHが撮影)

 一方、対照用に作製した、一般的なセパレーター(不織布)を用いた、今回の工夫なしのZn-Ni2次電池は、わずか7サイクル目でデンドライトが内部短絡し、それ以後の充放電ができなくなった。短絡後の負極表面は非常に不均一で、一部にデンドライトも形成されていたという。

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充放電後もZn負極面は均一
充放電前のZn負極(左上)と、従来タイプのセルで充放電した後の状態(右上)、および、今回の技術を実装したセルで充放電した後の状態(右下)。従来タイプのセルのZn負極は均一性が失われているが、今回の技術を実装したセルでは、均一性が保たれている。粒状の模様は、放電によってZnが酸化されてできる酸化亜鉛(ZnO)の粒子だとする。(写真:同志社大学のスライドを日経xTECHが撮影)

 盛満氏らはこのイオンの横の移動を制限する技術についての詳細は明かしていない。ただ、既に特許申請は済んでいるとする。

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