日本電信電話(NTT)は2019年11月5日、「単電子ポンプ」と呼ばれる2つのゲート電極を備えたトランジスタで、電子のコヒーレント振動の様子を観測することに成功したと発表した。この振動は約250GHzと超高速であるため、量子コンピューターの量子ビットとして用いると量子計算の高速化、または量子ビットの寿命(コヒーレント時間)を実質的に伸ばす効果が期待できるという。

 今回は韓国の研究機関Korea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)、および英National Physical Laboratoryとの共同研究で、詳細は2019年11月4日付けの論文誌「Nature Nanotechnology」に発表したほか、NTT主催の国際会議「International School and symposium on nanoscale transport and photonics 2019」(2019年11月18~22日、神奈川県厚木市のNTT厚木研究開発センタ)でも発表する。

 電子のコヒーレント振動は、電圧のポテンシャルなどで100nm幅などの狭い空間に閉じ込められた電子が高速に振動する現象を指す。振動数は閉じ込めた空間の寸法で決まり、100nm幅の場合は約250GHzで振動すると予測されていた。

 ところが、これまでの測定技術では100GHz以上の高速振動を捉えることができず、コヒーレント振動を直接検出した例はこれまでなかったとする。カメラのシャッターの動きが追い付かないわけだ。

電子の接近を検知して連写

 今回、NTTは以前に同社が開発した単電子ポンプ素子を用いてこの高速振動の検出に成功した。単電子ポンプは、電子を1つずつ送り出すことができる素子。2つのゲート電圧を制御することで、電子を保持する電圧のポテンシャル形状を操作し、あたかも電子を波乗りさせるように動かして電子の放出を実現する。

NTTが電子のコヒーレント振動測定に用いた単電子ポンプの素子構造
構造は2つのゲート電極を備えたSiトランジスタ。ゲート電極の電圧V1とV2は独立に制御する(図:NTT)

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単電子ポンプの顕微鏡写真
(写真:NTT)

 高速振動の検出では、2つのゲートのうち、出口側のゲート電圧を制御して、電圧ポテンシャル中に電子のエネルギーと同じエネルギー、つまり共鳴準位ができるようにした。すると、電子が振動によってこのゲートに近づいた際に電圧ポテンシャルをトンネルして、素子外部に流れる電流が大きくなる。言い換えると、電子が出口側ゲートに接近したことを検出できるようになる。これは人や動物の動きを検出したときだけシャッターを切るモーション検知カメラに似ている。電子の振動自体がシャッターになるわけだ。

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単電子ポンプでの電子の放出までのイメージと、”撮影”システム
電子がコヒーレント振動で出口側ゲートに接近すると、ゲートの共鳴準位から外へトンネル効果で放出される(図:NTT)

 単電子ポンプを動かしながらこの“カメラ”を動作させると、あたかも波乗り中の電子を連写するかのように、電子の接近を検知できる。具体的には、時間的な電流変化を2つのゲート電圧を軸とするグラフにマッピングすることで、波乗り中の電子の振動を高い時間分解能で可視化できる。

 NTTによれば、こうして“撮影”した電子のコヒーレント振動の様子は、量子力学に基づく理論計算と一致したという。

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”撮影”結果(左上)は、理論計算(右上)と一致
電流の変化を時間軸にマッピングすると、およそ4ピコ秒(250GHz)の周期で振動していることが分かる(左下)。(図:NTT)

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