約30種類の「創薬AI(人工知能)」を開発している国内の産学連携プロジェクト「ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)」は2019年10月2日、大阪市内で成果を公表する報告会を開催した。同コンソーシアムとして初めて商用化の成果を上げたものの、海外の大手製薬企業に対抗するための山積する課題も明かした。

 創薬はAIの応用研究が活発な分野の1つである。新薬の開発には膨大な時間と巨費がかかる。開発の成功確率は一般に2.5万分の1以下といわれる。この創薬プロセス全てにAIを活用し、開発のあり方を変えようとするプロジェクトがLINCだ。2016年11月に発足した。国内を中心に約100の大手製薬やヘルスケア、IT関連企業、研究組織が参加している。京都大学や理化学研究所などが事務局を務め、2020年9月までの3カ年計画で約30種類のAIの開発プロジェクトを進めている。

 そんなLINCが約30のAI開発プロジェクトのうち8件の進捗状況を披露した。そのなかの1つ、論文データから共同研究者を発掘するAIの開発プロジェクトについては、データベース事業を展開するジー・サーチが2019年8月末に商品化した。LINC初の商用化事例である。

 LINCは同プロジェクトを「有望提携先や研究テーマの自動探索」という名称で開発を進めてきた。学術文献データベースに収蔵された論文の著者約100万人分を基に、探索テーマを入力すると著者がどういう分野に知見があるかといったことや共著者名などが分かる。

 文献に収録された共著などデータを基に、ある点を通る経路が多いほど中心性が高いとする「媒介中心性」と呼ばれる計算手法を使い、人的ネットワークの関係性から成長性の高い有望な研究者を探せる。

写真 LINC代表を務める奥野恭史・京都大学大学院医学研究科教授
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 LINC代表を務める京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授は、同プロジェクトが早期に商用化できた成功要因について「プロジェクトのリーダーシップや参加メンバーの熱意などに加えて、もともとジー・サーチが文献データを保有していてアルゴリズムを実装できたこと」と説明する。豊富なデータの存在が、成功の鍵というわけだ。

 このほか報告会では、深層学習によって臓器の病理画像を基に異常や病変を判別するプロジェクトや、AIでタンパク質と化合物の結合力を推定するシミュレーションの技術などが披露された。

 ただ、プロジェクトの中には必要な医療データの取得が困難で思うように開発が進まない例もあるという。こうした例について奥野教授は「アルゴリズムそのもので何か非常に苦労しているのではなく、そもそもデータがないから苦労している」と指摘した。

海外企業はデータセットの構築に投資

 LINCは創薬分野に限らず、国内の産業界全体のAI活用モデルとして注目されている。国内の大学や研究機関が製薬などのライサイエンス分野の企業とIT企業を仲介し、創薬プロセスを網羅するAIを一斉に開発して業界全体で使えるようにするプロジェクトだからだ。産学連携のオープンイノベーションという「協調領域」で開発したAIのプロトタイプを基に、製薬企業などは独自のデータを用いて「競争領域」で事業化できる。

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