「今までは “系”のデータを扱っていたが、今後は“個”のデータを測って“系”を知るというデータリテラシーが求められるようになっている」。こう語るのはデンソー生産技術部 Factory IoT室データ解析課担当次長技師の吉野睦氏。同社におけるデータサイエンスの第一人者で、社内外でデータサイエンティストの育成に携わってきた人物だ。

 同氏のいうデータリテラシーとは、「目の前のデータを読み取り、次の分析アクションにつなげていく能力」(同氏)。同社では、ビッグデータやIoT(Internet of Things)の広がりに伴い、従来のSQC(統計的品質管理)と一線を画する技術者向けのデータサイエンス教育を進めてきた。今、さらに一歩先のデータサイエンス教育を始めようとしている。

 そのポイントとなるのが冒頭の“個”の視点だ。同社では2019年11月から技術者向けのスキルアップ研修にこの視点を取り入れていく計画。「ID付き(個)のデータとは何か、何のためにそのようなデータを活用するのか、どう解析するのか、といったことを教えていく」(同氏)。同社の「ダントツ工場」における同期一貫ラインの実現にもデータサイエンスは重要な要素となっている。

受けから攻めのデータ活用に

 「“個”のデータを測って“系”を知る」とはどのような意味か。そこには、「価値視点の変化が、観測視点つまりデータ構造の変化につながった。その結果、求められる認知能力や観察眼も変わった」(吉野氏)という背景がある。

 例えば、デパートにおける商品の売り上げ分析を考えてみよう。従来は曜日ごとや店舗ごとにどのような商品が売れたのかを集計し、品ぞろえを最適化して機会損失を最小化する。これは「待ちのアプローチ」だ。

 しかし近年はポイントカードの情報などによって、顧客を個人として捉えて「いつ、何を買ったか」を観測できるようになった。それにより顧客ごとにクーポンの内容を変えるなど、「攻めのアプローチ」が可能になる。

 これを製造業の生産管理に当てはめれば、工程ごとに集計したデータを使うか、ワークごとのデータを使うかという違いになる(図1)。前者は、カンバンに代表される工程(系)の着手数・完了数の管理であり、生産量や稼働率といったデータだ。これに対して後者は、個々のワークが「どの工程をいつ、どの程度の時間で通過したのか」といったデータになる。

図1 “系”から“個”へのデータ構造の変化
今後のデータサイエンスでは、多数のワークを群として扱う統計的な“系”のデータを直接測るのではなく、ワーク個々を識別できるように収集した“個”のデータを測った上で“系”を分析するような取り組みになる。(日経ものづくりが作成)
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 こうした個のデータに基づいて稼働状態や不良の発生といった系を分析すれば、従来は知り得なかった結果に到達できる。系の観測では埋もれてしまうような事実に気が付ける可能性が高まるからである。これが“個”のデータを測って“系”を知るという考え方だ。「今後の工場IoTはワーク個々の背番号管理が当たり前になっていく」(同氏)。

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