ビッグデータがもてはやされ始めた2010年代初め、ある製造業のベテランがこう言い放った。「製造現場のデータは、見る目のある人が見れば分析なんかしなくても意味は分かる。ものづくりの現場を知らないデータサイエンティストなんて必要ない」。時間をかけてデータを分析した結果が、大方想像できた結論とそう違わないのでは、データサイエンティストなど不要と感じるのも無理はない。

 その後状況は変わる。ビッグデータの背後にあるモデルを得る技術の1つとして機械学習が急浮上。機械学習はデータから統計的モデルを得る技術として利用できる。データから知見を得る意味で、今日データサイエンティストとAI(人工知能)人材は同じカテゴリの人材とされ、世の中の企業が奪い合う状況だ。

 機械学習をはじめ、データサイエンスの最先端では新しいアルゴリズムの開発が日進月歩で進む。その成果を製造業で役立てないのはもったいない。現場を知らないデータサイエンティストが役に立たないなら、現場を知る人、データを見て分かる人がデータサイエンティストになればよいのではないか─。それが「ものづくりデータサイエンティスト」だ。

“個”のデータを活用可能に

 「数年前に比べてデータ活用の状況が変わってきた」と指摘するのはデンソー生産技術部Factory IoT室データ解析課担当次長技師の吉野睦氏。「系よりも個」、すなわち工場IoTであれば、工程の状態を示すデータ(系)より、個々のワークがどうなっているか(個)を示すデータに重点が移りつつあるという。

 データをきめ細かく取得する技術が発展してきたことに加えて、膨大なデータ(ビッグデータ)を蓄積・処理する技術の発展が背景はある。ワーク個別、設備個別など、ID(個体識別番号)にひも付いたデータは、数が膨大になるだけでなく変数(特徴量)の種類も膨大(高次元)になる。普通の人間が直感的に把握できるのはせいぜい3~4次元くらいまで。しかし今のコンピューター技術なら膨大な数の多次元データを高速に扱える。これにより、従来は得られなかったような知見がデータから得られるようになってきている(図1)。

図1 データサイエンスが課題解決の限界を広げる
大規模なデータの扱いが可能になり、ものづくりに関しても既存の理論やシミュレーションでは得られなかった知見をデータから得られるようになった。そのための科学であるデータサイエンスや人工知能(AI)と、その使い手であるデータサイエンティストの重要性が大きく増している。(日経ものづくりが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 いわゆる「データドリブン」といわれる考え方で、大量に観測されるデータから知見を帰納的に導き出す。これまでの理論を積み上げて現象を証明するのとは異なったアプローチだ。研究開発、生産、顧客先での製品の稼働管理などのものづくりの各分野で「既存の限界を超える手法として新鮮味を感じてもらっているようだ」〔三菱ケミカルホールディングス(HD)デジタルトランスフォーメーションGrチーフコンサルタント/データサイエンティストでマテリアルズ・インフォマティクスCoEチームリーダーの磯村哲氏〕。

 日経ものづくりが2019年8月に実施した「ものづくりデータサイエンティスト」に関するアンケート調査の自由回答欄にも、今までにない知見の獲得や成果をデータサイエンスに期待する声があった。「これまでの経験則を打ち破るのが製造業のデータサイエンティストに最も求められる」「データをどのように使うかが非常に重要で、ここに競争力の差が出てくると予想される」といった意見だ。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら