電気自動車(EV)化に伴い、これまでエンジン音の影に隠れていた騒音が顕在化してきた。風切り音やロードノイズ、モーター音などである(図1)。クルマの新たな騒音問題の解決策として注目を集め始めたのが、「ナノファイバー」に代表される超極細繊維だ。高い吸音性能と薄さを生かして、従来トレードオフだった「静粛性」と「車内空間の広さ」の両立を狙う。

図1 EV化で顕在化する主な騒音とその周波数
モーター音や風切り音は周波数帯が広く、ロードノイズは周波数が極めて低い。従来の吸音材では対策が難しそうだ。(画像:日産自動車)
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 クルマの価値は「走る」「曲がる」「止まる」の走行性能から、車内の快適性に移りつつある。自動車メーカーが対策に苦心する中、素材メーカー各社は商機をにらみ、直径数μm以下の超極細繊維を用いた吸音材の実用化を加速させている。従来の吸音材に使われている繊維の直径は10μm程度である。

 「風切り音やロードノイズ、モーター音は人にとって耳障りな音で、しかも従来の吸音材では対策が難しい」――。吸音材の研究を手掛ける東京工業大学物質理工学院材料系助教の赤坂修一氏は分析する。このような騒音が耳障りなのは、「人の耳が聞き取ってしまいやすい1000~4000Hz程度の低周波帯域の音である」(同氏)ためだ。

薄くても低周波帯域に対応

 従来の吸音材で対応しようとすると、部材を厚くすることが必要になる。しかし、できるだけ車内空間を広げることが求められる中で、吸音材に割けるスペースは多くない。

 ナノファイバーなどの超極細繊維から成る吸音材は、薄くても5000Hz以下の周波数において高い吸音率を備える特徴を持つ。実用化が進めば、スペースを奪うことなく、車内の静粛性を確保できる(図2)。

図2 直径数μm以下の超極細繊維で吸音材を薄く
写真の上の層が直径1~3μm程度の超極細繊維を使ったもの。下の層は吸音材で一般的なポリエステル(PET)の短繊維で、直径は14μm程度。(画像:東洋紡)
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 吸音の原理はこうだ。吸音材に音波が侵入すると、材料内の繊維同士の間に摩擦が生じ、音エネルギーが熱エネルギーとして消費される。一般に繊維径が小さいほど表面積が大きくなるため、摩擦によるエネルギー変換の効果が高くなる。超極細繊維から成る吸音材は、繊維自体の振動も吸音率の向上に寄与する。

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