「Transducers(International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems)」は、MEMS(微小電子機械システム)に関する世界最大の隔年開催の国際会議だ。2019年6月23~27日に第20回の「Transducers 2019」がドイツ・ベルリンで開催された。前回の記事「MEMS応用が新PZTで拡大、レンズやスピーカー、超音波センサーへ」に続き、約650件の論文から、東北大学教授の田中秀治氏が最新のトレンドを解説する。同氏は、技術セミナー「車載センサー・IoTデバイスに革新をもたらすMEMS技術」の講師を務めるなど、この分野の第一人者である。MEMSマイク研究の最前線では、大きな変化が起こっている。新原理を探る動きや、マイクを集積して音響の変化から検知するセンサーの提案が出てきた。同セミナーでの解説に先立って田中氏が一部を概説する。(日経 xTECH)

 MEMSマイクロフォン(マイク)は、2010年に米アップル(Apple)の「iPhone 4」に搭載されて以来、エレクトレットコンデンサーマイク(ECM)を携帯電話機・スマートフォンから駆逐するとともに、性能を高めてきた。当初58~59dBだったSN比(信号対雑音比)は62~63dB、65~66dBと世代を経ることに向上した。遅くとも6~7年前にはSN比は65dBに達し、今でもスマートフォンに搭載されるMEMSマイクの性能は62~65dBと変わっていない。これ以上に高性能化してもユーザー体験はほとんど変わらないというのが、その理由である。

 一方、その間、マイクに高性能が求められる応用も登場した。代表的なものは「Amazon Echo」が先鞭を付けたAIスピーカーである。AIスピーカーでは、ユーザーとマイクとが離れている上に音声認識率がユーザー体験に直結する。現在、ハイエンドMEMSマイクのSN比は約70dBである。

既存のハイエンド品はデュアルバックプレート型

 このようなハイエンド品はデュアルバックプレート型MEMSマイクで実現されており、これは、音声で振動するSi(シリコン)薄膜(ダイヤフラム、メンブレン)が2枚のバックプレート(メッシュのような構造の電極)で挟まれた構造を有する(図1)。これによって、差動読み出しが可能になって出力が2倍になるとともに、同相ノイズが抑えられる。また、その構造の対称性によって静電トランスデューサーの感度に直結するバイアス電圧を高くできる。

図1 Infineon Technologiesのダブルバックプレート型静電MEMSマイク
(写真:Sebastian Anzinger et al., Proc. Transducers 2019, pp. 865-868)
[画像のクリックで拡大表示]

 バックプレートを2枚にすることで、音響ノイズ(後述するスクイーズドフィルムダンピング)は増えるが、それを補ってSN比の向上が期待できる。さらに、この構造は大音量時の信号の歪みにくさを示すアコースティックオーバーロードポイント(AOL、高調波歪みが10%になるSPL(音圧レベル))を高めることもできる。ただし湿気やほこりに弱い。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が12月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら