米中貿易摩擦が長期化し、中国における半導体の「内製力」に関心が集まっている。中国政府は猛烈な半導体産業育成策によって、自国の半導体メーカーの製造能力を高められるか。その現在地はどこか。メモリーを手掛ける各社の実態を、中国ハイテク事情に詳しい記者が丹念な調査で浮き彫りにする。(日経エレクトロニクス)

YMTCの工場の模型。月産10万枚の工場を3棟運営する計画だが、進捗は遅い(写真:筆者が撮影)
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 中国半導体メーカーが相次いで、巨大メモリー工場を稼働する計画だ。NANDフラッシュメモリー大手の東芝メモリが三重県四日市市に構える主力工場の月産能力は50万枚(300mmウエハー、以下同じ)。中国勢はこれを超えるか、迫る規模を目指している。中国勢の月産能力の目標は、CXMT(長鑫存儲)が60万枚、Tsinghua Unigroup(清華紫光)と南京市政府によるプロジェクト(以下、Unis南京)が30万枚、YMTC(長江存儲)も30万枚である。CXMTはDRAM、Unis南京はDRAMまたはNANDフラッシュ、YMTCはNANDフラッシュを製造する。

 中国勢が大きな目標を掲げるのは、利益を出すまでのプロセスが日本企業と全く異なるためだ。中国勢は製品の付加価値を追求しない。先行メーカー並みなら十二分とみる。その上で、政府が準備した資金によって生産規模を競合品と同等にする。それらがそろえば利益は自ずと出始めると考えている。実際YMTCが30万枚を目標としたのは、NANDフラッシュの全世界生産能力の2割を握るためだ。

 では直近の2019年第1四半期における月産能力はどうか。各社を支援する政府の公式情報に基づくと、CXMTとUnis南京が0、YMTCが5000枚である。2020年末における月産能力の予測値も、台湾Isaiah Researchによると目標よりはるかに小さい。CXMTが3万5000枚、Unis南京とYMTCが3万枚である(表1)。稼働率を100%、製造ロスや販売ロスを0としても各社の世界販売量シェアは10%未満だろう。

表1 今は目標に程遠い
中国メモリー2社の月産能力を示した。300mmウエハーを使用。(表:実績は行政の公告、予想はIsaiah Researchの調査などを基に筆者が作成)
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量産まで遠いCXMT

 CXMTとYMTCは2016年から、Unis南京は2017年から量産出荷を準備してきた。生産能力の達成時期を明示したYMTCは、進捗の遅れがとりわけ目立つ。月産30万枚に達する時期を2016年に2020年としていたが、2019年春に2023年に延ばした。

 しかしだからといって「中国勢に半導体メモリー事業なんて無理」と断ずるわけにはいかない。太陽電池やLED、液晶パネルでは中国企業が世界有数の市場シェアを得るに至った。半導体メモリーでもそうなるかもしれない。もともと中国企業の変化は極めて速い。「中国X社が半導体Yをついに国産化、Z年に量産出荷を始める」といった噂やニュースはよく流れる注1)

注1)中国企業は2018年10月のJHICC事件からステルス(情報秘匿)モードを徹底している。米国の商務省は、知的財産権を侵害されたという米Micron Technologyの主張を踏まえて米国企業がDRAMメーカーの中国JHICC(福建晋華)に輸出することを2018年10月に禁止した。米国メーカーの製造装置を買いにくくなったJHICCは、事業活動を停止。台湾UMC(聯電)がJHICCに派遣していた技術者は撤収した。同技術者は量産プロセス開発を指導していた1)

 日本企業の多くの困惑は、それを聞いても当のX社が何も発表していなかったり、頻繁に誤解や誇張が含まれていたりすることだ。しかし中国勢の実態は無償で確度が高い公開情報からうかがい知れる。(a)法人登記、(b)入札、(c)政策進捗に関する各Webサイトを活用する注2)

注2)中国語で記載されている。日本語を読み書きする人が解読するには、個人差は大きいだろうが中国語を1000時間学習しなくても可能だろう。

 (a)法人登記情報を扱う代表格は「国家企業信用信息公示系統(gsxt.gov.cn)」だ。やや使いづらいが、資本金や出資者の変遷を確認できる。特筆すべきは、その情報を見やすくした民間Webサイトが複数あり、一定範囲なら無料で閲覧できることだ。しかも民間Webサイトは国家企業信用信息公示系統が収録していない公開情報も一括表示する。具体的には申請した特許のリスト、人材募集の履歴、株式や社債による資金調達の履歴などがある注3)

注3)民間サイトは転記ミスがたまにある。

 CXMTについて調べてみると、量産のはるか前の段階にあることが分かった。CXMTの2018年における払込済み資本金(中国語:實繳資本)はゼロで、2019年7月9日までの交付における授権資本(資本金の最大枠)が1億人民元しかない。量産準備に全く見合っていない(表2)。

表2 登記簿からメモリー4社の実態をうかがう
CXMTとYMTC、およびそれらとよく混同される2社[Innotron(睿力)と中国XMC(新芯)]の概要を示した。赤字を見るとDRAMメーカー2社が大規模量産から遠いことが分かる。InnotronはCXMT子会社、XMCはYMTC子会社で、いずれも子会社の方が先に設立された。CXMTもYMTCもそれぞれの子会社とオフィスを共用している。(表:国家企業信用信息公示系統(gsxt.gov.cn)および企査査(qichacha.com)上のデータに基づき筆者が作成)
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 もっとも資本金とはいわば「見せ金」で、企業が実際に使える金額と直接リンクはしない。両社は、公営銀行などから借り入れて半導体製造装置の代金を支払えるかもしれない。安徽省政府の重要プロジェクト(省級重大項目)を担当しているからだ。

 しかし、それを踏まえてもCXMT払込済み資本金はあまりに少ない。半導体製造装置サプライヤーのほとんどは「CXMTとInnotronは見せ金すらまだ用意できず、売り上げ債権の回収リスクが極めて高い」とみなすだろう注4)

注4)CXMTが取れる対策は2つある。第1は授権資本(中国語で「認繳資本」または「注冊資本」)を現在の1億人民元から大幅に拡大した上で、それを満たす資金を用意して払込済み資本金とすること。第2は親会社(合肥長鑫集成電路)がCXMTの代わりに半導体製造装置を買うこと。CXMTは装置を低利で借りる。ただしこの親会社の払込済み資本金は5億人民元とまだ多くない。授権資本は2018年6月に20億人民元になった。

 加えてCXMTは株主構成が、「事業目的」の複雑さを匂わせる。“謎の人物”が同社授権資本の8割を握る状態だ。CXMTの出資者をたどっていったところ「杜文杰」という名の個人に行き着いた。「Baidu(百度)」検索ではどういう人物か分からなかった。穿った見方をすれば、CXMT株で世間にバレることなく儲けたい人達が杜文杰という名義を使っているのかもしれない。

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