「2000年ごろにSAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージを導入した企業の多くが結局、ERPを活用できていない状態だ」。SAPのERPのユーザー会であるジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)の前会長を務めた鈴鹿靖史 日本航空常勤監査役はこう指摘する。

 日本にSAPのERPパッケージの利用企業は2000社程度あると見られる。このうちの多くの企業が、苦労して多額の費用をかけて導入したERPの「本来の導入目的を達成できていない」と鈴鹿氏は話す。本来の導入目的とは、経営情報のリアルタイムの取得や、取得した情報を基にしたデータ経営だ。

 こうした過去のERP導入の「苦い経験」を生かし、これからのERP導入の成功を実現するためのポイントをまとめた文書が2019年7月11日登場した。名称は「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~(以下、ERP導入の羅針盤)」だ。ERP導入の羅針盤は130ページに及び、JSUGのWebページなどで無償公開したり、冊子を無償で配布したりしている。

冊子として配布されている「日本企業のためのERP導入の羅針盤」
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 ERPの羅針盤は「ERPを本来あるべき姿で導入するための指針をまとめたもの」(作成したメンバーの1人であるSAPジャパンの神沢正デジタルコアクラウド事業本部長)との位置づけだ。「SAP製品の導入を前提にしている部分もあるが、他社のERP導入の際にも役立つもあるだろう」と神沢本部長は話す。

 ERPの羅針盤では、実際にSAPの新ERPである「S/4HANA」に移行したユーザー4社の事例や、S/4HANAの製品解説などSAPユーザー向けの解説も多い。一方で前回導入時に「現場の言うことを聞き過ぎてアドオン(追加開発)ソフトを作成し過ぎた」「ERPの稼働自体がプロジェクトの目的になっていた」などの課題分析は、一般的な過去のERPパッケージの導入プロジェクトに通じる内容となっている。

業務をシステムに合わせ切れなかった

 ERPの羅針盤ではERP導入の本来あるべき姿の1つとして、「業務を標準化し、カスタマイズは極力行わず、極力標準機能で導入すべきもの」と定義。これに対してこれまでのERP導入は、「業務をシステムに合わせ切れずアドオンの山を築き、データの活用もままならない状況に陥っている」と指摘している。

 ERPを標準機能のまま導入すればバージョンアップが可能となり、導入時のまま数十年間、利用し続ける「塩漬け」状態を回避できる。しかし実際には、「業務改革を実行してERPに合わせようと言ったものの、現場のユーザーの使い勝手を向上する目的のアドオンソフトなど余計な開発を実施してしまった」とJSUGの鈴鹿氏は振り返る。2000年前後はSAPのERP「R/3」が市場に登場して間もないタイミングで、日本企業の業務を支援するのに十分な機能が備わっていなかったことも、アドオンソフトが増える要因の1つとなった。

 こうした過去のERP導入を実際に経験したメンバーが集まった「ニッポンのERP再定義委員会」が、ERPの羅針盤を作成した。ニッポンのERP再定義委員会は、JSUGとSAPジャパンが中心となって2018年に設立。JSUGの鈴鹿氏やSAPジャパンの福田譲社長などJSUGやSAPジャパンのメンバーに加え、ニチレイや大和ハウス工業、住友化学などのユーザー企業や、富士通やクニエなどのパートナー企業でSAP導入に関わった経験を持つ13人で構成している。

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