高度2000キロメートル以下を飛行する低軌道衛星を大量に打ち上げ、あらゆる場所にブロードバンド接続を提供しようとする試みが進んでいる。実現に向けた低軌道衛星が相次ぎ打ち上がり始めた。宇宙ビジネスに新たな革新が起こりつつある。

アマゾン・スペースX・ソフトバンクが虎視眈々

 ソフトバンクグループや英ヴァージン・グループ(Virgin Group)などが出資する英ワンウェブ(OneWeb)は約600基の人工衛星を打ち上げ、それぞれが連携しながら動く「衛星コンステレーション」を構築し、2021年にブロードバンド接続の商用サービスを提供する計画だ。2019年2月には試験用衛星6基を打ち上げ、このほど高度1200キロメートルの軌道に乗った。

 米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が設立した宇宙開発企業、米スペースX(SpaceX)も2020年代半ばまでに計1万2000基を打ち上げ、衛星コンステレーションを構築する計画を掲げる。2019年5月24日までに最初の60基を軌道に投入した。

 米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)のジェフ・ベゾスCEOが「今、最も興奮している」として2019年6月のイベント「Amazon re:MARS」で紹介したのが、「Project Kuiper(カイパー)」だ。Project Kuiperも低軌道の人工衛星を3000基以上打ち上げ、ブロードバンド接続を実現するものだ。

「圏外」のエリアに商機

 では、低軌道衛星を一体、何に使うのか。

 2019年7月9日に東京・虎ノ門で開かれた宇宙関連ビジネスのイベント「スペースタイド2019」。パネルディスカッションに登壇したソフトバンクグローバル事業戦略本部衛星事業推進部の砂川雅彦部長は、「従来の衛星通信にない低軌道衛星ならではの新しい用途には、IoT(インターネット・オブ・シングズ)のバックホール(中継回線)がある」とした。

2019年7月9日に開かれた宇宙関連ビジネスのイベント「スペースタイド2019」の様子
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 なぜなら、高度3万6000キロメートルの静止衛星を用いた従来の衛星通信と比べ、低軌道衛星を用いた通信はネットワークの遅延が小さいためだ。「静止衛星の30分の1の距離なので、遅延時間は地上との往復で20~30ミリ秒」という。次世代通信規格「5G」の遅延時間はこれよりさらに1桁小さい数ミリ秒単位を目指している。5Gのように「超低遅延」とまではいかないものの、低遅延の優位性を発揮し、IoTの中継回線だけでなく、高いデータ伝送能力を生かした自動車や電車などへのサービスを低軌道衛星で検討している。

 衛星通信はこれまでもインフラを設置しづらい離島をはじめ、東日本大震災といった災害時に使われてきた。今後は飛行機の機内や海洋上の船舶などでもブロードバンド接続を実現しやすくなる。地上の通信網がカバーしない「圏外」のエリアで低軌道衛星の商機がある。

 「我々は変わらなければならないし、変わろうとしている」。三菱電機先端技術総合研究所メカトロニクス技術部の吉河章二・主管技師長はこう話す。同社は1960年代に宇宙事業に参入して以来、通信・放送衛星や測位衛星、大型望遠鏡などを製造してきた。これまでは顧客の要望に合わせて特注で設計・製造してきたが、今後は汎用のハードウエアを大量に製造し、ソフトウエアの更新で随時機能を追加していくような設計思想や生産体制が求められているという。

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