大手携帯電話事業者が2019年秋に相次いで、衛星測位を用いた高精度の位置情報配信サービスに参入する。NTTドコモは2019年10月に「GNSS位置補正情報配信基盤」の提供を開始。ソフトバンクは同11月に、センチメートル級の測位が可能なサービスを開始する。KDDIも同様のサービスについて「開始時期は決まっていないが、商用化の準備を進めている」(同社)とする。

 衛星を使って現在地を特定する衛星測位は、スマホをはじめとする多くのデバイスで日常的に使われている。こうしたデバイスでの測位は、実際の場所からメートル単位のずれが生じることもある。

 そうした状況において、今後は自動車、農機、建機、ドローンなどの自動運転(自動操縦)における測位のニーズが増えていくことが確実だ。これらの用途では、車両の位置を正確に把握するため、センチメートル単位のずれに収まる高い精度の測位が必要となる。携帯電話事業者はこうしたニーズを満たすため、衛星測位の精度をセンチメートル単位に高める「補正情報」を携帯電話網を介して配信する仕組みを開発した。それを提供するのが、NTTドコモとソフトバンクが始めるサービスである。

 高精度の測位サービスは既にいくつか存在しているが、NTTドコモとソフトバンクが今後始めるサービスはそれらとどこが違うのか。両社が参入する狙いと中身をみていこう。

携帯電話網で測位補正情報を配信

 測位衛星としてよく使われるのは米国のGPSだが、その測位精度は決して高いわけではない。この精度を高くする手法として、RTK(リアルタイムキネマティック)がある。ドコモとソフトバンクのサービスは、このRTKを使って測位の精度を高めるための情報を配信する。

 RTKでは、高精度測位が必要な装置と、その最寄りの「基準点」「基地局」などと呼ばれる設備の両方で、同じGNSS衛星からの信号を受信する。それらはサーバーに送られ、演算によって測位精度を補正する情報が作られ、装置に配信される。装置からの情報収集や補正情報の配信に、携帯電話網が使われる。情報のやり取りには、RTCM(Radio Technical Commission for Maritime Services)というフォーマットが用いられる。

注:GNSSは、米国のGPSを含む衛星測位システムの総称。他にロシアのGLONASSや欧州のGalileoなどがある。

 この補正によって、高精度の測位が実現する。検証または実験の結果、ドコモはプラスマイナス2cm、ソフトバンクはプラスマイナス1.4cmとしている。いずれも精度はかなり高く、GPSだと数メートルずれることが普通にある点を考えると、RTKによる補正がいかに有効かが分かる。

携帯電話事業者が提供する高精度測位サービスの仕組み
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 ドコモとソフトバンクのサービスはRTKを使う点は同じだが、基準点ないし基地局の数に違いがある。ドコモは、国土地理院が設置した全国約1300カ所の「電子基準点」を利用する。電子基準点はおよそ20~25kmをカバーするが、それに加えてドコモは数百カ所の「ドコモ独自固定局」を補完的に設置する。ドコモ独自固定局の設置場所は、「フラグシップパートナー」としてサービス開始から使用するコマツのニーズがある場所付近になる。RTKは基準点や固定局といった局から離れるほど精度が下がっていくため近いほうがよい。ドコモ独自固定局は、ドコモの基地局やNTT局舎の屋上などに設置していく。

 ソフトバンクは、電子基準点を使わず自ら全国に約3300カ所の「ソフトバンク独自基準点」を設置する。運用のしやすさなどを考慮して、自社で設置することにした。ソフトバンク IoT事業開発本部 事業戦略統括部 ソリューション開発部 ソリューション企画2課の長谷川誠氏は、「RTKは、だいたい10kmの範囲に基準点があると高精度にできる。そこで当社は、ソフトバンク独自基準点が10km以内にあるような環境を作り出す」と説明する。

ソフトバンク IoT事業開発本部 事業戦略統括部 ソリューション開発部 ソリューション企画2課の長谷川誠氏
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 2社のサービスを利用するには、測位をするデバイスがRTKに対応するGNSS受信機とアンテナ、サーバーと通信するためのLTE通信モジュール、サービスにアクセスするプログラムを搭載していることが必要になる。ソフトバンクは、これらの機能を内蔵する小型の「GNSS受信機」を提供する予定だ。

ソフトバンクが提供予定のGNSS受信機。GNSSのアンテナを内蔵しており、LTE通信モジュールを搭載する
(出所:ソフトバンク)
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 ドコモは受信機を用意せず、メーカー製のRTK対応GNSS受信機に対応してもらう形となる。GNSS受信機メーカーのトプコンは、2社が発表したサービスについて「当社の受信機が対応できる可能性は十分にある。検証して精度や測位の安定性などを検証したいと考えている」と説明する。トプコンは現在顧客に、自社の基準局か既存の補正情報配信サービスを薦めているが、検証の結果がよければ新しい選択肢を提案できるだろうとしている。

「安くなるかどうか」は利用構成による

 サービス料金は、2社ともまだ明らかにしていない。現時点では、既存の補正情報配信サービスより抑えられるだろうという報道が目立つ。既存のサービスは、測位デバイス1台につき年間20~24万円程度とされる。これに対してドコモのサービスは、1台につき年間数万円レベルになるとみられる。ソフトバンクは、サービス料も受信機も既存のものより安くするという。それぞれ1台当たり月数千円、数万円のレベルになると予想される。

 適用分野の1つである農機を例に、コストの考え方を整理してみよう。既に、ロボットトラクターの自動運転などでRTKが実用化しており、基準局や受信機などの製品や、補正情報の配信サービスが提供されている。耕す場所が大きくずれると実用的ではないため、RTKが使われている。

 大手農機メーカーは、ロボットトラクターなど自動運転が可能な農機のオプションとして、RTK基地局を販売している。ロボットトラクターを導入した農家は、RTK基地局を近くに設置することで、高精度測位を利用した自動運転が可能になる。通信料は不要だ。こうした農機が2社の高精度測位サービスに対応すれば、料金は発生するが基地局の購入や設置は不要になる。

 

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