欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(Fiat Chrysler Automobiles、FCA)によるフランスのルノー(Renault)への経営統合提案が2019年6月6日に撤回された。FCAは、「提案の合理性を今も確信している」という声明を出すとともに、撤回の理由として「統合を成功させるための政治的な状況が現在のフランスに存在しない」ことを挙げた。提案では、統合によるコスト削減効果は年50億ユーロ(1ユーロ=125円換算で6250億円)を超え、ルノーと連合を組む日産自動車と三菱自動車にもそれぞれ年10億ユーロ(同1250億円)の効果があるという見通しを示していた。

[提案時の速報記事]
FCAがルノーに経営統合を提案、世界3位の販売台数へ

[提案撤回に関する速報記事]
FCAがルノーとの統合提案を撤回

 直近の2019年3月期連結決算において、日産自動車と三菱自動車の営業利益はそれぞれ3182億円、1118億円だった。そこに1000億円以上が上積みされるとなれば非常に大きい。だが、仮にFCAとルノー・日産・三菱連合が統合していたとして、日産自動車と三菱自動車は本当にそのようなコスト削減効果を得られたのだろうか。

消えた「400万台クラブ」

 自動車業界では多くの合従連衡が繰り広げられてきたが、ルノー・日産・三菱連合のように成功した(とこれまでいわれてきた)ものばかりではなく、失敗に終わったものも少なくない。その代表例が、FCAの一員である米クライスラー(Chrysler)とドイツのダイムラー(Daimler)の統合だ。両社は1998年に統合したが、目立った成果を残せないまま2007年に統合を解消した。

 1990年代の自動車業界では「生産台数が年400万台に満たないメーカーは生き残れない」という言説が飛び交い、「400万台クラブ」なる言葉も生まれた。両社の統合はその象徴といわれていたが、失敗が明らかになると、そのうち誰も400万台クラブという言葉を使わなくなった。近年は新たに「1000万台クラブ」として復活しつつあるが、その一角を占めているルノー・日産・三菱連合に統合の話が持ち上がったことからも、台数そのものに意味や根拠がないのは明白である。

 同じく1000万台クラブのトヨタ自動車も、15年前と比べて連結売上高が約1.7倍、連結販売台数が約1.5倍になったが、それでもっと利益を稼げるようになったかといえば、そうでもない。2014年度(2015年3月期)と2015年度は営業利益率が10%を超えたものの、直近の2016~2018年度は7~8%台にとどまった。リーマン・ショック前の2000年代は8~9%台で推移していたので、ようやく以前の水準に戻ったというところである。

「規模の経済」の限界

 そもそも自動車産業は、とっくの昔に規模の経済が働きにくくなっている。自動車の量産効果に関する著名な理論に「マクシー・シルバーストン曲線(Maxcy-Silberston Curve)」がある。端的にいえば、「車種ごとの量産効果は、年産20万台ぐらいまでは生産台数に比例して上がるが、20万台を超えると頭打ちになる」というものだ。マクシー・シルバーストン曲線は今からちょうど60年前に発表された理論であり、その間に自動車の構成部品や生産技術は進化してきたが、自動車の基本的な構造が変わっていない以上、現代でもそれに近い限界があると見るのが妥当だろう。

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