伊豆で日本初「観光型MaaS」の実証実験

 次に、次世代型のシームレスな移動を実現する「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」に関するセッションを紹介しよう。登壇者は、伊豆半島で日本初の「観光型MaaS」の実証実験を手がける東京急行電鉄の事業開発室プロジェクト推進部プロジェクトチーム課長の森田創氏、ジェイアール東日本企画の常務取締役で営業本部長、チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)の高橋敦司氏、そして政府の取り組みを解説する国土交通省の総合政策局公共交通政策部交通計画課の交通政策企画調整官の日下雄介氏の3氏だ。

日本版MaaSの議論を推進する国土交通省の日下雄介・企画調整官

 MaaSは移動の効率化だけではなく、まちづくりや社会課題の解決などにもつながると期待されている。国交省の取り組みとして日下氏は次のように語る。

 「人口減少、少子高齢化に加えて、交通機関の運転手不足も顕著になってきており、地域交通の現状は厳しい。国交省では07年に『地域公共交通活性化再生法』を制定し、いかに地域の交通手段を確保するかに取り組んできた。現在は『日本版MaaS』を実現すべく議論を開始している」

 その中間とりまとめのポイントは主に4つだ。「事業者間のデータ連携」「運賃・料金の柔軟化、キャッシュレス化」「まちづくり・インフラ整備との連携」「新型輸送サービスの推進」である。また地域の特性を5つに分類し、各地域が抱える交通課題に対して、MaaSの望ましい在り方を整理しているという。

 続いて、東急電鉄とJR東日本企画は伊豆半島における日本初の「観光型MaaS」の実証実験を紹介した。フェーズ1は今年4月1日から6月30日までの3カ月だ。伊豆への観光客の8割は自家用車を利用するとされる。休日の国道135号線の激しい渋滞はよく知られたところ。公共交通機関を利用するにも、駅からの2次交通が分かりにくいことや、それを担う人材不足が課題だった。こうした課題の解決が実証実験の狙いだという。JR東日本企画の高橋氏は次のように語った。

 「下田周辺の観光名所は駅から車で数十分といった微妙な距離にあり、公共交通機関も少なく、魅力的な観光資源が生かされていなかった。鉄道会社としての使命は、住人や訪れる人が増え、地域が栄えること。これをMaaSで解決できないかと思った」

鉄道会社としての使命を語るジェイアール東日本企画の高橋敦司常務

 今回の実証実験の目玉は、専用アプリ「Izuko」の開発だ。伊豆の旅行を便利にするさまざまなサービスがアプリ上で展開されている。

 伊豆エリアを移動する際に、電車、バスを2日間自由に利用できるデジタルフリーパスを提供。Izuko上で決済でき、伊東ー下田エリアのみの「Izukoイースト」と、伊東ー下田ー修善寺ー三島まで広く使える「Izukoワイド」の2種類を用意した。利用者は駅の改札やバスの乗車時にアプリを見せるだけでいい。また、近隣の観光施設のデジタルチケットを割安で購入できる機能もある。アプリで事前購入すればチケット購入の列に並ばなくても済む。さらには、観光者目線で名所のルートを検索できる機能や、レンタカーやレンタサイクルを予約できる機能もある。

 「実証実験の目標としてアプリダウンロード数2万件、フリーパスの販売数1万枚を目指している。ぜひダウンロードして伊豆を訪れてほしい」と東急電鉄の森田氏は来場者へ訴えかけた。

専用アプリのIzukoへの期待を寄せる東京急行電鉄の森田創課長

下田でAIオンデマンド交通を運行

 1853年のペリー来航の地、下田には歴史ある街並みが今も残っている。ただ道路幅が狭く公共交通機関が入れない場所もあった。そこで、観光客だけでなく地元の住人も利用できるAIオンデマンド乗合交通を運行し、利便性を高めようとしている。市内16カ所に40センチ角のシールをつけて乗降場所を設定、利用者はアプリ上で乗合交通を呼ぶことができる。乗客の待ち状況や目的地データを基に、AIが最適なルートをドライバーに提示することで、効率的な運行を可能にしているという。

 「待ち時間およそ10分で車が到着する。アプリ上ではあとどのくらいで着くかの確認もできる。観光客と地元の方との交流が生まれることも期待したい」とJR東日本企画の高橋氏は言う。

 このセッションでは来場者へリアルタイムのアンケートを実施。「MaaSで解決したい社会課題は何か」という問いに対し、選択肢に「高齢者による事故撲滅と免許返納後の移動手段確保」「満員電車や交通渋滞の解消」「過疎地域などの交通弱者の救済」を挙げたところ、「満員電車や交通渋滞の解消」と答えた人が最も多い結果となった。

 この結果に国交省の日下氏は、「サブスクリプションといった定額制サービスが広がれば、より利便性が高まり交通渋滞の解消につながるのではないか。2019年4月18日から『新モビリティサービス推進事業』の公募を開始。全国15カ所ほどを予定しており、各地域のモデルとなるところを支援していきたい。その結果を他の地域にも成功事例として示せればと思う」と語った。

観光客の利便性をいかに高めるか

 MaaSで解決すべき課題は移動手段以外にも、観光客の利便性をいかに高めるかがある。下田ではクレジットカードが利用できる地元の店が2店舗ほどしかなく、外国人観光客などには不便な状態だ。

 「決済手段のキャッシュレス化は大きな課題だ。お土産屋さんや飲食店などは、これまでMaaSの対象としてあまり語られてこなかった。が、これからは地域の皆さんと連携して伊豆をICT武装し、最先端の観光地にしていきたい」とJR東日本企画の高橋氏は語った。

 もっとも、サービスを提供する側の高齢化も進んでおり、スマホの利用に慣れていない場合も多いという。「携帯電話会社とも協力して、地元の高齢者に向けたスマホの説明会なども開催しているところだ。MaaSでは、技術を導入すれば一足飛びにすべて解決とはならず、地元の方と課題解決に向けた地道な作業を一つひとつ進めていくことが大切だと思う」と東急電鉄の森田氏は言う。MaaSの社会への浸透で周辺ビジネスにも好影響が出て、人々の消費行動を大きく変えていくのかもしれない。

日経クロストレンド」から転載