東京電力ホールディングス傘下の送配電事業会社、東京電力パワーグリッドが海外展開を強化している。その足掛かりに選んだのはオランダだ。子会社であるTEPCO IECが同国のサイバーセキュリティー企業と協業して、送配電網の監視制御システムなどを欧州に売り込もうとしている。

 その第1弾がオランダ・ウーデンに拠点を置くコンピュマティカ・セキュアネットワークス(Compumatica Secure Networks)との協業だ。同社はVPN製品などのメーカーで、欧州の大手メーカーや政府系機関を顧客に抱える。

 高いセキュリティーが要求される環境下で使用する片方向通信技術「データダイオード」をコンピュマティカがTEPCO IECに提供。TEPCO IECが送配電網を監視・制御するシステムに同技術を組み込んで、ポーランドやジョージア、ドイツなどに売り込んでいる。

東電がオランダのセキュリティー団体に加入

 東電のグループ会社であるTEPCO IECとコンピュマティカを橋渡ししたのは、オランダ・ハーグに本拠を置くサイバーセキュリティーに関する産官学の情報共有プラットフォーム「ハーグ・セキュリティー・デルタ(HSD、Hague Security Delta)」だ。2013年に設立したHSDはサイバーセキュリティーにテーマを絞り、約280のオランダ国内外の企業や政府、国際機関、研究機関などが加入する連合体だ。

 ハーグ市内にあるHSDの「キャンパス」はラボや研修施設、カフェを備え、加入メンバーがネットワークを作る場になっている。TEPCO IECは2018年11月に欧州進出への足掛かりを築くためにHSDに加入した。コンピュマティカとの協業はTEPCO IECにとって、HSDに加入して初めての成果となる。

 そもそもなぜ東電が欧州進出を目指しているのか。TEPCO IECの社名にあるIECは「Infrastructure Exports Company」の略で、その名の通り送配電事業の海外展開を手掛ける。同社の大石峰士社長は東電パワーグリッドの海外事業推進室長も兼務している。

TEPCO IECの大石峰士社長
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独自主義の転換がきっかけ

 東電はかつて送配電網の監視制御システムについて自社で設計から開発・テストまで実施し、サーバーなどのハードウエアを外部調達する「自前主義」をとってきた。だが2012年に原子力損害賠償支援機構(当時、現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を通じて1兆円の公的資金が投入されて実質国有化した後は、外部への発注にも透明性が求められるようになった。

 加えてシステムの更新は10年に一度である。「自分たちだけで開発していては世の中から遅れてしまう」という社内の意識も高まり、2015年のシステム更新の際に社外のパートナーと共に国際標準に準拠した監視制御システムを設計する方向に舵(かじ)を切った。同時に通信セキュリティーの更なる強化を図るため、米セキュリティーソフト大手マカフィー(McAfee)にもシステムの開発チームに入ってもらった。

 日本の他の電力会社は仕様の設計については自前主義を採用している。海外の送配電会社は自ら使用を設計せず、ドイツ・シーメンス(Siemens)やフランス・アルストム(Alstom)など重電大手のパッケージ化された制御システムを調達するケースが多い。東電は社外の専門家と一緒に国際標準に準拠するシステムを開発した経験を通じて培った監視制御システムの仕様を決めるノウハウを海外展開するため、2017年にTEPCO IECを設立した。

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