国際刑事警察機構(ICPO)がシンガポールに設けたサイバー犯罪対策拠点「IGCI」では世界から集まった専門家が日夜サイバー犯罪の分析に取り組んでいる。そのIGCIが開所した2015年から初代トップを務めた中谷昇氏が2019年4月1日付でヤフーの執行役員に転じた。

ヤフーの中谷昇執行役員政策企画統括本部長
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 中谷氏の警察でのキャリアは26年間だ。2003年から16年間にわたりサイバー犯罪畑を歩み、国際派としても知られる。サイバーセキュリティー業界でも有名人だ。2018年にシンガポールから帰国し、警察庁で国際課長を務めていた。転身の背景には何があったのか。

社長自らオファー

 「1年前には想像もしていなかった。いくつかのドラマが重なり、自然な流れで決めた。運命だったのかなと思う」。中谷氏は振り返る。

 直接のきっかけは、2018年12月、ヤフーとソフトバンクが共同で展開するスマートフォン決済サービス「PayPay」でクレジットカードが不正に利用される被害が相次いだことだった。通信経路を秘匿する通信技術を使うなどしないとたどり着けないサイト群「ダークウェブ」に大量に流出したカード情報が悪用されたとされている。

 運営会社のPayPay(東京・千代田)やヤフーの過失ではなかったが、「ヤフーはこの事件をきっかけに、サイバーセキュリティーのリーディングカンパニーになるという目標を掲げた」(中谷氏)。事件直後の12月末、中谷氏は旧知の間柄だったヤフーの川辺健太郎社長から直接、転職の誘いを受けた。

 中谷氏自身は2023年のICPOの事務総長選挙に出馬するつもりでいた。しかし、日本の官庁ならではの年功序列人事が障壁となり、出馬を断念した直後のオファーだった。「50歳の誕生日を迎える直前に転職を決断した」(中谷氏)。

サイバー犯罪に各国警察が「最も困っている」

 中谷氏はサイバー犯罪捜査の第一人者として「現実空間と同じやり方では、サイバー空間の犯罪者を捕まえられない」と長く肌で感じてきた。現実空間では住所や氏名、職業といった「人定事項」は警察が捜査を通じて把握できるが、サイバー空間ではプラットフォーマーがユーザー情報を持っている。現実世界のようにはいかない。

 パトロールのノウハウも現実空間と比べてサイバー空間では十分に積み上がっているわけではない。サイバー犯罪は国境を簡単に越えるが、警察制度のよりどころは各国の法律であるため、多国籍捜査は難しいという面もある。

 そんな問題意識からICGIでは、ICPO加盟各国の警察当局が「最も困っている分野」(中谷氏)であるサイバー犯罪の情報を提供するために陣頭指揮を執った。2015年当時は90人程度の人員だったが、3年後には170人体制まで拡大させた。

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