スマホにつながる人工内耳、雑音環境でも明瞭な通話を

加齢性難聴を「しょうがない」で済まさないで

2019/03/15 05:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 最近、人の声やテレビの音声が聞こえにくい――。そんな難聴を解決する手段に「人工内耳」がある。

 音を大きくして中耳に伝える補聴器に対して、人工内耳はその名の通り内耳の働きをする人工感覚器である。内耳に代わって音声を分析し、重要な情報を抜き出して電気信号に変換して神経に伝える役割をする。

 人工内耳は、体内に埋め込むインプラントと体外装置であるサウンドプロセッサから成る。インプラントは手術で埋め込み、サウンドプロセッサはインプラントと頭皮を隔てて磁力で耳の上に貼り付ける。

(1)マイクロホンで音を拾いデジタル信号に変換するサウンドプロセッサ、(2)デジタル信号をインプラントに送る送信コイル、(3)デジタル信号を電気信号に変換するインプラント、(4)インプラントからの刺激を受ける蝸牛の聴神経(日本コクレアのプレスリリースより)
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 日本では1991年に人工内耳手術の保険診療が可能になって以来、手術件数は年々増加している。その上、2017年には成人の人工内耳の適用範囲が広がった。これまでは、難聴の中でも「重度難聴」に当たる90dB以上の音しか聞こえない人のみが対象だったが、70~90dB以上の音が聴き取れる「高度難聴」の人のうち、補聴器を装用した状態で最高語音明瞭度(聴き取りの良さ)が50%以下の人も保険診療の対象となったのだ。

 2019年1月には日本コクレアがスマートフォンから流れる電話などの音声を直接ストリーミングできる人工内耳サウンドプロセッサ「Nucleus 7 サウンドプロセッサ」を発売した。従来の人工内耳では、電話の音声が雑音に混ざってしまい通話の聴き取りが難しかった。Nucleus 7では通話の音声をスマホから直接サウンドプロセッサに送信できるため、雑音環境でも明瞭に聴き取りやすくなるという。

人工内耳サウンドプロセッサ「Nucleus 7 サウンドプロセッサ」
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頭皮を隔てて磁力で装着しているのが耳かけ型のサウンドプロセッサ
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「つ」と「す」が聴き分けられる

 そもそも人工内耳と補聴器はどのように使い分けられているのだろうか。

 人工内耳は、高度から重度の「感音性難聴」の患者に効果的な治療法である。感音性難聴とは、中耳(蝸牛)にある有毛細胞の欠損や損傷が原因で引き起こされる難聴だ。一方補聴器は、軽度から中度の感音性難聴や、「伝音性難聴」に効果的とされる。伝音性難聴は、外耳または中耳が原因で音が正しく伝わらない状態のこと。症状は軽度から中度で、一時的なものもある。

 人工内耳と補聴器のどちらも適用できる重度の感音性難聴の場合、医師が患者のニーズを確認して治療法を決める。

日本コクレア 代表取締役社長の清水博行氏
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 感音性難聴の患者も、補聴器を装用することで音を聴くことはできる。しかし、「つ」と「す」を聴き分けたり、音を単語として理解したりするのが難しい場合もある。内耳自体に障害があるので、補聴器でいくら音を大きくしても単語として認識できないからだ。

 ただし、人工内耳の利用には手術が必要になる。さらに、人工内耳の手術が行える医師は「日本で数百人」(清水氏)と決して多くない。耳鼻咽喉科の医師にとっても、人工内耳への理解度や認知度はまだまだ低く、医療機関にかかっても人工内耳を勧められないケースもあるという。

スクリーニングが難しい“高齢者”

 最近は、高齢者の難聴も問題になっている。

 難聴は、その発症時期に応じて大きく3つに分類できる。(1)先天性難聴、(2)中途失聴、(3)加齢性難聴、である。(1)の先天性難聴は、新生児を対象にした聴覚スクリーニングで検査することができる。(2)の中途失聴は病気やケガで耳を失ったり、薬の副作用で聴力を失ったりしてしまうことで起きる。昨日まで聞こえていた音が突然聞こえなくなるため、自ら医療機関を訪れる人が多い。

 一方、(3)の加齢性難聴は、徐々に聴力を失うため本人も周囲も気付きにくい。また、「おじいちゃん最近テレビの音が聞こえないようだけど、年だからしょうがないよね。病気じゃないから気にしないで」と軽視してしまう人も多い。

 ただし、近年の研究では「難聴と認知機能の関係性が注目されているので、加齢性難聴を放っておくことで将来的に別の問題が生じる可能性がある」と清水氏は警鐘を鳴らす。人工内耳や補聴器などの治療を行うのは、難聴に気付いた後、早ければ早い方が良いとされている。難聴を放っておくと、聴こえにくい状態に脳が適応してしまうからだ。

骨を使って音を伝える補聴器

 日本コクレアは、国内で唯一となる骨固定型補聴器「Cochlear Baha システム」も販売している。通常の補聴器が外耳から内耳までの気道を利用して音を伝えるのに対し、骨固定型補聴器は骨を通じて音を伝える。何らかの障害がある外耳から中耳を迂回して音を伝えることができるのだ。

 Cochlear Baha システムは、耳の後ろにチタン製のインプラントを植え込む必要がある。インプラントに体外装置のサウンドプロセッサを取り付けると、サウンドプロセッサで拾った音声の振動を頭蓋骨を通じて内耳に伝えることができる仕組みだ。

骨固定型補聴器「Cochlear Baha システム」を装着したイメージ
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植え込んだインプラントにサウンドプロセッサを取り付けて使用する
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 適応に当たって年齢の基準は設けられていないが、インプラントの厚みが3~4mmなので骨の厚みが3mm以上の人に対して植え込み手術を行える。日本コクレアによると、5歳くらいで骨の厚みが3mmまで成長するという。

 既に世界で15万人が利用しているといい、「難聴者の新たな選択肢になれば」と清水氏は展望する。